寒い…喉が痛い…なんだか関節も痛い気がする…。
それでも痛みの方はなんとか耐えられたが、寒さだけはどうしようもなく、アーサーはベッドの中でブランケットをかき集めて縮こまった。
――寒いん?――
と、当たり前の事を聞く声が聞こえる。
それに、痛む喉では声もでなくてコクコクとただ頭を縦に振ると、大きな手で頭を撫でられて、しかしすぐ手は離れていった。
体中が痛いくせに撫でられるのは心地よくて、その感触が消えたのを残念に思う。
が、しばらくして少しブランケットが持ち上げられて、寒さにまた身震いするも、何かブランケットよりも温かいものに包まれて、アーサーは思わずそれに擦り寄った。
ブランケットよりも温かくて気持ちいい。
可哀想になぁ…辛いなぁ…と、優しく髪を撫でられる感触…。
しっかりと背中まで回される頼もしくもたくましい腕。
囲まれている感に安心して、すぐに眠気が訪れた。
次に意識が戻ったのは、体温が離れていく感覚でだ。
とにかく寒くて、離れようとする体温にすがりつくように手を伸ばすと、
――すぐ戻るから、大丈夫やで。ちょっとだけ待っといてな。
と、また頭を撫でられて、仕方なしに伸ばした手をブランケットの中に戻す。
それに小さく笑って気配が離れていった。
寒い…寂しい…心細い…。
自宅でだって他人に構われることなんてほぼなくて、一人ぼっちには慣れていたはずなのに、どうしてだかそんな想いが涙と一緒に溢れ出る。
クスンクスンと枕に顔を埋めるように泣いていると、遠くで話していた声がやんで、誰かが慌ただしく近づいてくる気配がした。
「堪忍な~。大丈夫やで。親分そばにおるで」
ガチャっと若干乱暴にサイドテーブルに何か置かれる音がして、覆いかぶさるようにした胸元に頭を引き寄せられる。
その体温になんだか癒やされて、涙もいつしか止まってくると、
「落ち着いたんやったら、飯食おうか?」
と、再度離れる気配にはっとした。
え?え?ええ??
そういえば…何してるんだ、俺??
泣きすぎて重くなったまぶたを開けば、そこには褐色の整った顔。
キラキラと光るエメラルドのような瞳がアーサーを見下ろしている。
そうだった!ここはサンサークルの城で……
うああああ~~!!!!!
ガバっ!と身を起こせばクラリと目眩がして前のめりになる身体。
「起きたらあかんよっ!寝ときっ!」
と、それを支えてくれるしっかりと筋肉のついた腕。
「…ぁ…ごめ…なさ……だいじょ…ぶ…」
痛む喉から声を振り絞ると、綺麗な形の眉が困ったように寄せられて
「あかんよ。ここまで来るのに随分無理したんやろ?
医者が過労やって言うとったわ。
しばらくは絶対安静やて。
そうやないと、疲れるとすぐ熱出す体質になってまうって言うとったよ」
と、また寝かされた。
ああ…もうダメだ…とじわりと涙が浮かんでくる。
合流したその日に熱を出して絶対安静なんて、絶対に足手まといと思われている…。
そう思うと死にたくなった。
「泣かんといて?大丈夫やで?
知らんところで体調崩して心細いかもしれへんけど、親分がちゃんと面倒みて守ったるからな?安心し。
自分は大事な大事な親分の半身やからな。なんも心配せんでもええよ?」
と、しかしそこで優しい優しい言葉と共に涙が溢れて止まらない目元にチュッチュッと唇が降ってくる。
「…ごめ…ごめ…なさ………」
ヒックヒックと泣きながら見上げると、柔らかく微笑まれた。
まるで全てを照らし全てを育て慈しむお日様のような笑み…。
「可愛えパートナー持てて、その世話が出来て、親分とぉっても幸せやで。
謝る事も泣く事もないんやで?ちゃんと休んで早う元気になろうな?」
と、頭をまた撫でられて、アーサーは動揺する。
物心ついてから今まで、こんなに優しくされた事がなくて、ただただ驚いて、ビックリまなこでアントーニョを見上げると、
「起きとるなら飯食おうか。
薬湯も飲まなあかんからな」
と、またニッコリと微笑まれた。
0 件のコメント :
コメントを投稿