ショタペド戦士は童顔魔術師がお好き【第一章】8

こうして数週間。
事前にキクから受けたアドバイス通り、子どもの一人旅は目立つだろうと、なるべく人混みを避け、必要なものだけを街で調達しつつ、森で野宿を繰り返し、アーサーはひたすら歩く。

一人旅どころか街を出たこともないアーサーにとってそれは緊張の連続だったが、それでも8年前に助けてもらった青年に会いたい一心でサンサークルの城を目指した。


そして、不思議とトラブルに見舞われることもなく、なんとかサンサークルに辿り着き、伝説の武器の使い手としてローマ司令官に謁見を許された時には、正直気を失いそうなくらいフラフラだった。

謁見の際、伝説の武器の武人は基本的に二人一組で行動すること、そしてアーサーのパートナーがお孫様、つまりあの青年であることを告げられた時には、自分は疲労のあまり夢をみているのかと、アーサーは思わず自分の頬をつねり、痛みに夢でない事を知る。

こうして荷物とともに案内された部屋は大きなワンルーム。
ここに青年と共に住むのだと言われて、アーサーは絶句した。
嘘だ。無理だ。緊張で死ぬ…。

あまりの落ち着かなさに、荷物の中から幼い頃から一緒に寝ているクマのぬいぐるみを出して抱きしめたまま、ソファに勝手に座っていいものかもわからないので、床に座る。

お孫様は自分の事を覚えているだろうか…いや、いないだろう。

きっと自分にとっては特別な出来事でも、伝説の武人として戦い続けている彼にとっては、逃げ遅れた子どもを助けることなど日常茶飯事だろうし…などと思いながらも、ひたすら待つ。

そうしているうちに、廊下の方から話し声が近づいてきた。


『ほんま、魔術系って……。冗談やないわぁ~。
あいつらすぐへばるし文句多いし、勘弁したってや~』
そう話す声の主は、あの独特のイントネーションで、すぐ誰だかわかった。

しかしながら、その心底うんざりしたような声音に、アーサーは泣きそうになる。

そうか…自分はただ浮かれていたが、相手にとって迷惑だという可能性も当然あったのだ…。

そう思うと、今すぐ消えてしまいたいと思うが、伝説の武器に選ばれた事を公にした今それも出来ず、いたたまれない気分で開かれたドアに目を向けた。

ドアの向こうから現れたのは、まだ少年ぽさを多分に残していた8年前と違って、しっかりと青年に育ったお孫様。
あの頃から整った顔をしていたが、今は男らしい精悍さが増し、まばゆいばかりだ。
こんな相手に嫌がられているのだと思うと、本当に死んでしまいたい。

「…あの……迷惑…かけるつもりはないから」
と、せめて足手まといにならないようにするから…一生懸命働くからと伝えようと口を開くと、青年はあのアーサーを助けてくれた時のまま優しい心根を持ち続けていて哀れに思ったのだろう。

慌てたように
「迷惑やないわっっ!!!」
と、言ってくれる。

そしておそらく脳内で考えをまとめようと思ったのだろう。
褐色の大きな片手で顔を覆い、しばらく無言だったが、やがて手をおろしアーサーの方を見ると、

「あのな…パートナーやで?!
世界で唯一大事な大事なパートナーのやることで迷惑なんて事、なんもあらへん。
自分のやることの責任は全部親分が持ったるし、必要なことはなんでも手伝ったるし、コンペイ党からだろうと魔人からだろうと、何からだろうと守ったるっ!
せやからなんも心配せんでもええんやで?」
とまで言ってくれた。

ああ、本当は嫌なのだろうに、本当に優しい。

その後、
「一人でここに来たん?」とか「名前は?」
と優しく色々聞かれて、もう胸がいっぱいで涙がこぼれ出た。

ごめん…ごめんなさい。
来なきゃ良かったのに…

そんないたたまれなさから泣いていると、お孫様はやっぱり8年前のように優しい笑みを浮かべて、アーサーの前にしゃがみこむと、本当にこの上なく優しい口調で

「遠くから一人でこんなところまで偉かったな。
心細かったやんな?
でも安心し。これからは親分がず~っと一緒や。
自分の事は親分が何からも守ったるからな」
と言って、頭をそっと撫でてくれる。

本当にどこまで優しいのだろう…。
この国の最高司令官で偉い偉い伝説の武人のお孫様で、自分自身も伝説の武器に選ばれてずっと戦ってきた英雄なのに、全く居丈高なところがなく、自分みたいに迷惑な相手でも泣いていれば優しく慰めてくれるなんて、本当に見た目も良ければ心根も真っ直ぐで素晴らしい人だ。



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