ショタペド戦士は童顔魔術師がお好き【第一章】7

そんなことがあってからだ。
それまではただ娯楽だった本が、人生の目標を叶えるための手段になったのは。

アーサーはそれからとにかく勉強をした。
幸いにして魔術の街のさらに旧家だったため、魔術書は山とある。
それをとにかく読みふけり、こっそりと試し、また読みふける。


このアルヴィオンで随一の名家の子息が一魔術師になりたいなどとは到底周りに言えるはずもなく5年の月日が過ぎ、あの祭りの日に7歳だったアーサーが12歳の時、一人の青年と出会ったことで転機が訪れる。

仕事でしばらく西の都に滞在するからと訪ねてきたその東洋の商人は、アーサーよりはだいぶ年上で…、大人には見えなかったが大人だったらしい。

サラサラの黒髪に賢そうな濃い茶の瞳をした青年で、各国から買い付けた珍しい品々を売りにカークランド家をしばしば訪れた。

もちろんそんな風に商人から買い付けをする場所にアーサーが呼んでもらえることなど皆無だったが、物珍しさに青年が帰る頃にこっそり外へと出てみれば、

――ホンダキクと申します。お名前を伺っても?
と、少女のように綺麗な顔に似合わない落ち着いた声で、青年はにこりと綺麗な笑みを浮かべて話しかけてきた。

それを機に、その後しばしばアーサーはキクと会うようになり、世界中を回っている彼の話に聞きふけるようになる。

彼は、ここ、西の国だけではない、東方の魔術の本も見せてくれたし、一般人の暮らしについても教えてくれた。
キクはアーサーが見る館の外の世界の全てだった。

こうして色々知った時、アーサーは秘かに決意する。
15歳になったら…家を出て首都であるサンサークルへ行こうと。

そのために古文書や魔術書の翻訳や清書など、キクの仕事をこっそり手伝って、こっそりお金を貯めた。

もちろん伝説の武器に選ばれたお孫様の側で働けるなんて事はないだろうが、魔術師として一般兵扱いでも雇ってもらえて城にいれば、遠目からでもまたあの笑顔を見られるかもしれない。

そう思ってひたすら魔術の勉強に打ち込むアーサーに、さらなる奇跡が起きた。
もうじき15になろうと言うある日、アーサーの元に伝説の武器が現れたのである。


――セラフィナイトウォンド…強力な癒やしをもたらす天使の杖。

きらきらとグリーンの光を発するその杖は、アーサーの周りを一回りすると、形を変えて指輪となってアーサーの小さな手に収まる。

それはまだ夜の明けきらぬ明け方の事だったのだが、喜びと戸惑いで混乱したままアーサーはこっそりと屋敷を抜け出し、キクの元へ走った。
屋敷の誰も教えてくれない外の世界の事を教えてくれるのはいつでもキクだからである。

キクに指にはまった指輪を見せると共に事情を話すと、キクはクスリと笑い、いつもしていた白い手袋を外す。

――私のは…アメジストダガーというのですよ。
と言うその手には紫の指輪。

「え?キクもだったのかっ?!」

「ええ。知られると色々拘束したがる者が出るので秘密にしていましたが…アーサーさんと一緒ならひとところに落ち着く生活も楽しそうですね。
とりあえず、今日一日で旅の準備をして差し上げますから、明日、夜更けと共にサンサークルに出発なさると宜しいと思います。
伝説の武器の事は誰にも話してはいけませんよ?
街をあげて引き止めるために追手をかけられますから」
と、苦笑しながらいうところを見ると経験者らしい。

「明日の夜が更けたらここへいらして下さい。
一日は幻術でごまかして差し上げます。
普通ならもう少しもたせられるんですが…相手はカークランド家ですからね。
意表をついていても、それが限度です。
その間に少しでも遠くへ行くんですよ」

あとから私も追いかけますから…というキクに頷いて、アーサーはとりあえず自宅へ戻り、そして翌日の夜、再度キクを訪ねて旅に必要な諸々を受け取ると、一人、アルヴィオンの都を後にしたのだった。



Before <<<       >>> Next


0 件のコメント :

コメントを投稿