あれは…イエローアベンチュリンクラブ…伝説の武器の1つだ…と、本の中でしか見たことのないその神々しい光景にアーサーは見惚れ…そして気付かなかった。
魔人はたいてい数体の魔物と共に現れる。
伝説の武器でしか倒せないのは魔人だけで、魔物の方は普通の武器でも倒すことができるので、将軍の周りの兵が戦っていたが、その中の一匹が無力な獲物を見つけて群れを離れていたのである。
アーサーがそれに気づいたのは、地を這う、頭は猿で身体はヘビという魔物が、自分のすぐ目の前に現れた時だった。
そのグロテスクにして恐ろしい姿に悲鳴すら出ず、硬直する。
人間死ぬ時はそれまでの記憶が走馬灯のように…などというが、そんな余裕もなく、頭の中が真っ白になる。
恐ろしげな顔。大きく開かれた口から見える鋭い牙。
ただ、死ぬっ!!とそれだけが脳裏によぎった時、魔物と自分の間に何かが立ちはだかった。
自分よりは大きく頼もしい…しかし大人に比べたらはるかに小さな背中。
まるで燃えているように真っ赤な戦斧が振り下ろされ、自分ではなく魔物の方が息絶える。
そうして次の瞬間、背中の主は振り返って斧を自分の背に背負い、アーサーをヒョイッと軽々抱き上げて走った。
そしてだいぶ戦場から離れたあたりで、アーサーを下ろす
「このへんやったら、魔物も来ぃへんな。
お姫さん、大丈夫やった?怪我ない?」
と笑った顔がまるで太陽のようだと思った。
キラキラと輝いて見えて、相手は同性だと確かに認識しているのに、それは正しく恋といってもいいような感情が芽生える。
燃えるような赤い大斧――ルビーアックス。
それを手にしているということは、目の前の少年は伝説の勇者、ローマ将軍の孫息子なのだろう。
男の子らしい精悍さと、育ちが良さがにじみ出たような、明るい雰囲気を兼ね備えた少年は、本当に物語の中で見る勇者のようで、アーサーの目には輝いて見えた。
そんな英雄に出会えて嬉しくて…でも世界が違う事を痛感して悲しくなる。
彼はこれから光の中を歩いて輝かしい歴史を作っていく一方で、自分はこの片田舎で朽ちていくのだろう。
せめて…その彼の人生の片隅に何かを残したい…。
そんな事を思って
「ありがとうございます。これ…お礼に…」
と、自分が生まれ落ちた時に唯一その誕生を喜んでくれた亡き母がかけてくれたという十字架を少年に差し出した。
「え?でも…これずいぶん立派なモンちゃう?ええの?」
と戸惑う少年に
「生きていて良い…そう行動で示してくれたあなたにつけていて欲しいんだ」
というと、少年はちょっと目を丸くして、それから
「おおきにっ。親分の人生初の勲章やな」
と、また晴れやかに笑う。
その、少年の人生の初の…という言葉で欲が出た。
彼と一緒にいて、彼の人生にもっと関わりたい。
…それはその時点では無理な望みで………
やがて兵士が加勢を要請しに彼を呼びに来て、少年は
「気をつけて帰り」
と言う言葉を残して戦場へと戻っていった。
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