フェイクのマリアベールに真実の愛はあるのかっ?!2_1



「エルネストさんっ!寝ないで下さいっ!寝たいのはこっちなんですからねっ!!」

ホテルアルマダ日本支社営業本部長本田菊。

いつも笑みを浮かべている穏やかな人物として名高い彼をキレさせる事の出来る数少ない人物…それが彼の部下、エルネスト・アルメイダ…本田が入社したての研修期間の頃の教育係だった男である。


そのセンスを買われて世界各国のホテルアルマダを転々としつつ、たまに新人研修をするという彼はポルトガル人で、日本に来たのは6年前。
中途入社だった当時27だった本田より1歳年下の26だった。

がちがちに緊張して分刻みで動きたがる本田におっとりと応じるエルネスト。

「そんな忙しない顔で対応されたらお客さんかて疲れてまうで~」

とへらへらと笑いながらのんびりしているようでいてそれなりに実績をあげている彼が当時本田はずいぶんと不思議だったものだが、どこか相手を緊張させない彼の周りにはどうやら疲れた人間が集うらしい。

そして元気になった時に何かしら彼に便宜をはかったり手伝ったりするため、自分で何か特別な事をするわけでもないようなのに、彼の仕事はいつのまにか完璧に終わっている。

ずいぶんと得な性格だ…と、普通なら妬む人間の一人でも出てきそうなものだが、彼の場合、一貫したその性格からそういう者すら出てこない。

…というか、仕事が出来て実績をあげても出世をかたくなに断るので、自分が育ててきた元新人が次々上司になっていくような状態を見ると、ひがみようがない。

かくいう本田だって、中途入社とは言え、1年後には彼より立場的には上になっていた。


『え~出世?堪忍してやぁ…。忙しうなるのはかなわへんわぁ…』
と言う彼に

『でもその分地位も収入も増えますよ。将来的に結婚だってなさるでしょうし、その場合はそういうものがあるにこしたことはないでしょう?』
と、何故か皆しっかり者に育つ彼が教育した面々が言えば、彼は

『自分はしっかりしとるなぁ。自分はそうしたらええわ~』
と目を細めて笑いながらも、じゃあ、あなたも…と言われると

『俺はええねん。そういう生活が好きやし、一緒に暮らすなら同じように、豪華な生活できても忙しいて一緒に過ごせへんのやったら、休日は金かからんように家でパンでも齧りながらダラ~っとくっついてすごすのが好きな嫁さんもらうさかいな~。
好きな生活スタイルが似とること、これは長く一緒におるんやったら大事やで~』
と、実に彼らしい言葉を返してくる。



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