The escape from the crazy love_7_5

はた迷惑な兄弟愛

「黒幕はお兄さんじゃないからね」

イギリスがダイニングに消えて、さあ本題にと言う雰囲気が出来た瞬間のフランシスの第一声がそれだった。


「ちゃうん?」
と、そう思っていた事をここまできて隠しても仕方ないのでスペインは素直にそう問いかける。

「自分がアメリカ嵌めた証拠はあるんやけど?」
と言われれば、あ、それは認めるけど黒幕は別よ?と、フランスは悪びれずに言った。

「お兄さんも手の平で踊ってただけだよ?
ただアメリカと違うのは、お兄さんは最終的に自分の目的が果たせればいいやって思って、知ってて踊らされてたことかな?」

「プーちゃん」

冷やりと室温が下がった気がした。
スペインの声にヒュンッ!とプロイセンが何かを投げる。

振り返りもせずスペインが人差し指と中指で挟んだそれは、鋭利なナイフ…平和な時代になって久しいというのに大した反射神経だ。


「嘘はなしなしやで?」

手の中でクルクルとそのナイフを弄びながら、スペインは殺気立った視線をフランスに向ける。
欺けば容赦なくその刃を突きつける事も辞さないと…そんな空気を暗に醸し出していた。

「嘘じゃないよ?」

内心冷やりと汗をかきながらも、フランスは表面上は平静を保って悠然と微笑む。

「ふーん…ここまで話したんなら教える気はあるんやんな?」
ストンとナイフがテーブルに刺さった。

――親分な…今回はちょお本気やで?

確かに笑みを浮かべているのに、フランスを見つめる緑の目は獲物を追い詰める肉食獣のソレで…

「自分も随分と昔から執着してんのは知っとるんやけど、今回は一切譲る気はあらへん」
と、ギラギラと威圧してくる。

アメリカあたりなら引き下がるその野生の猛獣じみた殺気だが、フランスはそれを鼻で笑った。

「分かってていまさら横取り?」
「横取られるんが嫌やったんなら、もうちょお上手くやりや?
なあ?愛の国?」

スペインの挑発にフランスがポーカーフェイスを崩してガタっと立ち上がる。
そこで弾かれたようにプロイセンとドイツが動きかけるが、スペインがそれを手で制した。

「俺があの子嫌っとるとか、あの子が俺嫌っとるとか離間かけとったのはこの際かまへんわ。
せやけど今回の一連、あれは許さへんでっ!!
あの子あれでどれだけ怖い思いして参ってもうたと思っとるんやっ!!
愛の国言うなら相手の方を傷つける前提で強引に奪うんやなくて、上手いこと気持ち向けられる方法取れるやろがっ!!
自分がみっともない思いしても惨めな思いしても、惚れた相手は全力で守ったるっそれが愛っちゅうもんやないんかっ?!!」


――ああ…だからこいつは嫌だったんだよね……
フランシスは苦々しい気持ちで思う。


スペインは別に決して綺麗でも純粋でもない。
それは共にローマの保護下にいて欧州を長く生き抜いてきた自分と同じだ。
敵は平然と踏み潰すし、時代によっては自分ですら引くくらいえげつない拷問をやってのけた。

なのに自分と違うところ……こと好きな存在ができると、唯一その相手のためなら良識もプライドも損得もなにもかも、全てを捨ててしまえる。

美しい自分と自国、その他諸々守るものが多くて捨てられない自分と、なにもかも度外視で相手のために動けるスペインでは、所詮出来る範囲が違うのだ。

それを無意識に知っていたから、あの当時…大国だった自分が、国土の大半を異教徒に占領されて四苦八苦していたはずのスペインを恐れた。

こいつに目をつけられたら最後、絶対に取られてしまう……そんな予感がしていたのだ。

こいつの元にだけは行かせてはいけなかった…それが出来なかった時点で、全ての作戦は失敗だったのだ…。


「坊ちゃんの兄貴達だよ」
本気で苦い思いを噛み締めてフランスは言った。

「へ?何が?」
ぽかんとするスペインに、フランスは若干苛つきながら繰り返す。

「何が?じゃないよ。今回の黒幕」

ああ…本当にこんなヤツに今更取られるなんて…お兄さんが負けるなんて……

『あ~、ウェル?お兄さん負けちゃったよ。
え?ううん、違うよ。アメリカじゃない。スペイン。
え~?どうなってるって?それはお兄さんの方が聞きたいよ。
とにかく勝負はスコットの一人勝ちだね』

驚くスペイン達を置き去りに、フランスはその場で携帯で報告し始めた。
そして延々と話した後に通話を終え、ため息をつく。

「ま、そういうわけだよ。
坊ちゃんの兄貴3人がそれぞれ秘蔵の酒を持ち寄って賭けしてたんだ。
たぶんスコットランドが言い出しっぺ。
誰が坊ちゃん落とすかってね。
アイルランドはアメリカに賭け、ウェールズはお兄さんに賭けた。
で、そのどちらでもない場合はスコットランドの総取り。
坊ちゃんはアメリカに甘いし、放置OKって事でアイルランドはただ賭けただけ。
ウェールズは積極的にお兄さんに協力してくれた。
…ってことでOK?」

やけくそのように言うフランスに、少し考えこむスペイン。


「それ…アーティには…」
「言ってやれば?」
「それ言うたら…」

「一人寂しい坊ちゃんが心配で、かといって心配だなんて言えないツンデレ兄達が誰かが坊ちゃんといてくれるようにって素直に言えなくて賭けを理由に坊ちゃんに恋人見つける計画たてたけど、もう勝者が決まったから安心して大丈夫だよってね」

肩をすくめるフランスに、ぽか~んとするスペイン。


「何?その顔?」
「いや…あの…」
「あのねー、お兄さんだって好き好んで好きな子虐める年はとっくに過ぎてんのっ!
自分の得にもならない意地悪なんてしません~」

そう言ってフランスは立ち上がった。
そのままドアに向かうと、ドアを塞いでいたドイツが慌てて避ける。

そうしてドアノブに手をかけたフランスは、あ、でもね…と、後ろを振り返った。

「坊ちゃんが恋愛慣れしてきたら…お兄さんの出番くるかもだし、覚悟しておいてね♪」
と、パチンとウィンク一つして、スペインが言葉を返す前にフランスは出て行った。


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