The escape from the crazy love_7_2

赤い策略

とにかく…青少年としての思春期とマザコンとがごっちゃになったアメリカは、どうやら言われなければ好き勝手やるが、怒られたらやめるという、本当に子どものような行動性の奴らしい。

とすると、いくらでも抑えようがあるから放置でオッケイとして……

まあそもそも考えてみれば、盗聴と盗撮がバレてからは、確かにアメリカ自身がイギリス邸に頻繁に訪れる事はしていないし、ブラコンをこじらせたアメリカの性格から言っても、例え欲しいモノを手に入れるためであっても、イギリスのプライベート空間に他人が入り込むのを潔しとしない気がする。

…とすると…この、私物や無防備なイギリスの写真の数々を手に入れる事が出来た人物の特定など簡単だ。

自分と同じローマ帝国が健在だった頃からいた古参ではあるが…まあ随分と回りくどく画策するものだ…と、スペインは苦々しく思う。

悪友…などと一緒くたにされるが、いつもお互いに根っこの部分でどこか対立していた気がする。

イギリスのアルマダ前の海賊うんぬんなど、あの男の、一緒に攻め入ったくせに勝利した途端に手の平を返して今度はスペインを乗っ取った所業に比べたら、可愛いものだ。

そう…その裏切りによってスペインはあやうく自分が消えるところまで追い詰められたのである。

なのに何故アルマダでのイギリスとのいざこざだけが今なおしつこく取り沙汰されるのかがスペイン自身も…たぶんイギリスにもわからなかったが、意外にその裏にはあの男のイギリスに対する執着からくる画策があったのかもしれない…。

――これは…腰を据えてとりかからんとあかんなぁ……

そう思ってスペインはチラリとようやく泣きやんだ新大陸の子どもに目を向ける。


――ま、これはこっちに取りこんどかんと…

「ま、自分も災難やったなぁ」
スペインはにこりと今度は太陽のような…と称される温かく人懐っこい笑みをアメリカに向けた。

「…さい…なん?」
きょとんと目を丸くする様子はまだまだ幼げで、その様子はまるで欧州の肉食獣に弄ばれるもの知らずの子鹿のようだ…とスペインは内心ほくそ笑んだ。

「ああ。実はな、自分がうちに来るちょっと前にイギリスが親分とこ逃げこんで来ててん。
で、親分は欧州でも古参で皆の親分やから頼ってこられたら守ったらなあかん思うてかくまったったんやけどな…その時イギリスが言うててん。

アメリカに隠しマイクやら隠しカメラやら仕掛けられて怒ったったあと、これで反省したかと思うたら私物がなくなり始めて、おかしい思うてたらフランスが来て自分が調べたる言うてな…数日後フランスからその写真見せられたらしいんや。

それでイギリスはすっかり自分がまだイギリスん家に何かしとんちゃう?って思うて怖なったとこにフランスに自分家来ぃや言われてフランスん家に行ったらしいんやけど、そこでフランスに自分のモンになれ言われて襲われかけて、それで親分とこに来たんやて。

で、親分も自分がイギリスにストーカーしとると思うて仕置したらなあかん思うたんやけど、今自分に事情聞いてちょお思うたんや。

なあ…おかしいと思わん?
一体誰が自分にイギリスの私物を売ったんやろな?
自分がイギリスの事好きやなんて知っとって、しかもイギリスん家に普通に入れる奴なんて、そうそうおらんやん?」

そこまで言ってやれば、KYと言われていてもさすがに気づく。

「フランス……なんだね?!」

ああ…おちた…

スペインは内心は笑いながらも、表面的には遺憾な表情を作ってみせる。

「長い付き合いの奴やから…疑いとうはないんやけどな…」
「そんなのっ!友人だからって悪い事は許しちゃダメなんだぞ!!」
「せやけど、責めにくいわぁ…」
「君が出来ないなら俺がやるっ!!」

「自分にとっても元兄みたいなモンちゃうの?独立ん時とか随分世話になっとったやろ」
嫌なあたりを突いてやると、案の定アメリカは嫌な顔をした。

「そんなの…正義の前には関係ないんだぞっ!」
「お~、さすがにヒーロー自称する奴は意志強いなぁ」

欧州の面々なら必ず嫌味と取るその言葉も、純真な若い国は額面通り取ったらしい。

「当たり前なんだぞっ!ヒーローは悪に負けたりしないんだっ!」
と目をキラキラ輝かせる。

「ま、自分だけやとまた騙されたり嵌められたりするかもしれへんから、相談だけは乗ったるわ」

と、若者いじりと煽りはその辺りで切り上げて、スペインは黒幕にターゲットを移すことにした。



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