The escape from the crazy love_5_4

出来心と出来た心

それは追い詰められすぎた挙句の出来心だった。

――もう一度風邪をひけば帰らずに済むかもしれない……

おりしもその日は夕方から雨が降っていた。
夕食後、スペインが食器を片づけている間、リビングで刺繍をしながらふと外に目を向けたイギリスは、ふらふらと引きつけられるように庭へと続くガラス戸に歩み寄った。

そのままスリッパのまま庭に出ると、叩きつけるような雨にすぐ全身がびしょ濡れになる。

――これで…風邪ひけるかな?
ふとそんな考えが脳裏をよぎるが、国である以上、人間よりは丈夫にできているため、これくらいでは無理かもしれない。

そう思ってふと思いつく。
海なら…長く浸かれば体調を崩せるかもしれない…。

幸いにして海は歩いて50mもない場所にある。
イギリスは足早に海岸へと急いだ。


夏になれば田舎で人が少ないながらも地元民が集う砂浜には、まだ春先で海水浴には早い季節だけあって人っ子一人いない。

雨に濡れたスリッパはグシャリと気持ち悪く、イギリスは砂浜につくとそれを脱ぎ捨て、寄せては返す波の中に足を踏み入れた。

――冷たい……

これならいけるかも…と、とりあえず胸元までは浸かろうと、そのまま歩を進めると、風と雨と波の音に混じって、最近国名よりも聞き慣れてしまった人名を呼ぶ声がする。


「……ティ……アーティ……あかんっ!!!」

――バレた!
瞬間そう思った。

自分がこんな馬鹿ではた迷惑な画策をしたのがバレてしまった…
帰って子分に会ううんぬん以前に呆れて怒って見捨てられる……

そんな拒絶の言葉は聞きたくない……


イギリスは慌てて逃げ出した。

逃げたらどうなるというものでもないのだが、そんな風に冷静に考えている余裕はなかった。


追いつかれたら終わりだ…と、焦ったのが悪かったのか、そうしているうちに砂に足を取られていきなり転んで水を飲む。


冷静に立ち上がればすむ話なのだが、泳げないだけにその状況にひどく慌てて水をかき、波に次第に深い場所へと流されていき、水の中で呼吸が出来ないまま、フッと意識が途切れていった。





 Before <<<      >>> Next


0 件のコメント :

コメントを投稿