イギリスをリビングに残してチュロスを皿に移し、チョコレートをマグに注いだところで携帯が振動した。
パカンと開くと発信者はオーストリア。
珍しい人間から来たものだと出てみると
『もしかしてイギリスがそっちにいたりしますか?』
と開口一番に言われて思わず口をつぐんだ。
『いるんですね…全くあなたって人は……』
と、電話の向こうでため息。
おそらく他を騙せてもオーストリアだけは騙せない。
「フランスに言われたのかアメリカに言われたのかは知らんけど、後生やから、黙っといて」
最終的に対峙するにしても、もう少し時間が欲しい。
せめて…イギリスの体調がもう少し回復していろいろに耐えられるまで。
どちらから聞かれたのだとしても相手は大国だ。
その不興を被るのが目に見えているのに、はるか昔の婚姻関係で絆されてくれるだろうか…と、楽天的なスペインでもさすがに不安になった。
電話を持つ手にじっとり汗をかきながら返答を待っていると、また電話の向こうからため息が聞こえた。
『本当にあなたの絆されやすさときたら、困ったものですね、お馬鹿さん』
その言葉に了承の意を汲み取ってスペインはほ~っと全身から力を抜いてため息をついた。
「オーストリア、おおきに!ほんま恩に着るわ」
パン!と携帯を肩と顔の間に挟んで手を合わせるスペイン。
さすが古い付き合いだと黙っていてもらえるらしい事に感動していると、それだけじゃなかったらしい。
『一人で抱え込んでいるんじゃありませんよ。
どうせ一人で暇しているどこかのもう一人のお馬鹿さんを巻き込めばいいでしょう?
なんのための悪友ですか』
と、ナイスなアドバイスまでくれた。
「そっか~、そうやんな。プーちゃん巻き込んで盾にすればええやん」
と、こんな言われ方で通じてしまうことも、巻き込まれることも、人権を無視された発言をされることも、さすが普憫…普憫である。
『とにかく、一人で抱え込むんじゃありませんよ、お馬鹿さん。
連絡係くらいはして差し上げますから何かあったらおっしゃい』
「おおきに~。ほんま助かるわ~」
そう言ってからふと考えると、欧州に限って言えば縁が深く好意的な関係を築いて来た相手が多い。
オーストリアの他にもロマーノはもちろん、ロマーノつながりでイタリア、クルン兄弟が味方に付けばもれなくドイツ兄弟も引きずられてくる。
その他ベルギーにオランダもいるし、イギリスの関係者である英連邦の面々は当然こちらの側に着くだろう。
リヒテンシュタインはイギリスと刺繍仲間。
リヒテンシュタインが付けばもれなくスイスもついてくる。
意外に味方は多いのかもしれない。
いや、こうして指折り数えてみれば、敵対する相手の方が少ないのではないだろうか…
とりあえずオーストリアとの通話を終えて、プロイセンに連絡を取ろうかと思っていると、
「…とーにょ?」
と、黄色い頭がひょこっとキッチンのドアの影から覗く。
――なんや、それ…
ちょこっと隙間からのぞく白い華奢な手…
大きな目を縁取る長いまつげが不安げに震える。
わざとだったらあざとすぎるレベルの可愛らしさだ。
スペインの親分的な何かがきゅんきゅんして動悸が止まらない。
「…何か…あったのか?」
と心細げに聞いてくるその様子にスペインはもう堪らなくなって駆け寄ると、またぎゅうっとその細い身体を抱きしめた。
「…え?…あ、あの…とーにょ?」
わたわたと焦るのも可愛いが、ここでおかしなことを言ったらようやく接触に慣れてきたのにまた怖がらせる。
「あ~、うん。久しく一人やったから、家族おるのってええなぁって思うてん」
ワシワシと頭をなでながらそう言うと、イギリスは暴れるのをやめてきゅうっとスペインを抱きしめ返してきた。
ぶっふぉぉ~~~
危うく心臓が口から飛び出るところだった。
デレか?デレなのか?
普段素直じゃない子どものデレは犯罪レベルのヤバさだと思う。
あかん…この子かわええ…。
可愛すぎやん!
あかん、あかんわっ。
この子は親分の子ぉや、絶対にメタボや変態の餌食になんかさせられへん!
そんな決意を新たにするスペインに、
「なあ…」
と口を開くイギリス。
「なん?」
「チュロス…まだかよ?」
ぷくぅっと膨れて上目遣いで見られた途端…スペインの頭の中で親分スイッチが殺人的な勢いで連打されたのだった。
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