私物の紛失
そんな感じでちょっとしたスレ違いでこの事件は終わったとイギリスは思っていた。
しかし違和感に気づいたのはそれから2,3日後。
他のモノならどこかに置き忘れたと言うこともあるのだろうが、なにせ歯ブラシだ。
洗面所でしか使わない。
何故?と首をかしげたが、まあ高いものでもないし予備を買い置いてあったので、新しいものを出して使うことにした。
それからも何故か私物がなくなり続けた。
多くのアンティークや宝石など金目のモノには一切手が付けられていないのに、洗濯機に入れておいた洗濯物だとか、あとで洗おうと流しに置いておいたカップなど、何故かそんな日用品ばかりが紛失する。
しかもその数日後…新品の…ひどく表面積が狭いパンツが届けられた時には泣きそうになった。
他にも歯ブラシ、カップとなくしたモノの代わりに新品が届けられる。
まさか…また寂しいとかでアメリカが秘かに持っていったわけじゃないだろうな?と一瞬そんな考えが頭をよぎったが、怖くて確認ができず、私物がなくなっては新品が届けられるのを震えながら見ているしかできない日々が続いていった。
そんなイギリスの異変に真っ先に気づいたのはやっぱり隣国で、怖い、確認できないと、もう心底まいっていたので素直に心中を告白したら、こっそりと調べてくれたらしい。
探偵に頼んだのか自国のエージェントを使ったのかは定かではないが、二国間会議のあとにそのまま二人きりになった会議室で見せられた写真は衝撃的すぎて、イギリスは恐怖で声も出なかった。
最初の1枚はとある部屋の写真。
壁には一面イギリスの写真。
そのほぼ全てが盗撮らしくカメラに視線が向いていない。
しかも中には入浴や着替え中の写真まである。
ベッドに敷いてあるのは外に干した時になくなった自分のシーツだ。
自作の刺繍が施してあるから間違いはない。
そして…ベッドの枕元には洗濯機に入れたまま失くなったパンツ。
同じものがないとは言えないが、この状況でユニオンジャック柄といったら、ほぼ自分のに間違いないだろう。
しかし何故枕元にパンツ?と首をかしげると、そこでフランスに“オカズ”の意味を聞いて、トイレに駆け込んで吐いてしまった。
失くなったモノは飽くまで私的な物に限定されていて、先日盗聴器が仕掛けられていたのも書斎やリビングなど仕事関係の場所以外なので、よもや元弟にストーカーされているらしいなどと不名誉な事を上司に相談したくはないし、とても出来ないと思うが、本能的な恐怖はどうしようもない。
――坊ちゃん、落ち着くまで休暇取ってお兄さんの家で暮らしなさい。
そう言ってくれた隣国がこの世で唯一縋れる頼りになる相手だとその時は思った。
実際休暇を取ること自体は実はそう難しくはない。
イギリスがやっているのはデスクワークで、機密に関わる事も少なくはないが、だからといって“国の化身”がやらないと困るものでもないのだ。
しかも今のイギリスは3人の兄と共に4人で回しているわけではあるし、イギリスがやらなければ他の3人がやるだけのこと。
そういうわけでイギリスはとりあえず1年の休暇を取った。
それだけ接触を避ければ、飽きやすいアメリカの事だ、他に可愛い女の子でも見つけて自分から興味をなくすだろう、そう思ったのだ。
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