The escape from the crazy love_2_4

特定

「坊ちゃん、今すぐ荷物まとめてお兄さんの家に来なさい。」

どうやってきたのかは敢えて聞くまい。
本当に真夜中に息を切らせてやってきたフランスは、イギリスがドアを開けるなりそう言った。

「は?お前なにいって……」
と、それに対して条件反射的に文句を言いかけた時に鳴る携帯。

「ちょっと中で待ってろ」
と、顎で中に促してフランスが入るのと同時にドアを閉めると、通話ボタンを押した携帯から聞こえてくるのは、激怒しているアメリカの声。

『イギリスっ!君なんてことしてるんだいっ?!
そんな危険人物をこんな夜に自宅に入れるなんて正気の沙汰じゃないよっ!!
すぐ追い返してっ!!!』

この時点でさすがに変だと気づいた。

フランスが家に着いたのはたった今だ。
何故そのタイミングで電話がかかってくるんだ…。

「…お前…なんで今髭がうちに来たって事……」
『君が心配だからに決まってるだろうっ!そんな事どうだっていいよっ!』
「どうでもよくねえよっ!どう考えたっておかしいだろっ!」
思わず怒鳴るとイギリスの手からスッと携帯が取り上げられた。

冷やりとした空気…。
フランスが怒っている。

最近は滅多になかったが、昔…イギリスがまだ子どもでフランスの家に連れて来られてた時はしばしばこんな表情をしたフランスに恐怖心を抱いた覚えがある。

――アメリカからだな?
と、普段なら“だよね?”とか“だね?”とか柔らかい言葉を選ぶのに、語尾が違うあたりで、ああ、こいつ怒ってる…と、不本意ながら少し怖くなって、イギリスはおとなしくうなづいた。


「アロー、フランスだ。アメリカ、お前どういうつもりだ?
坊ちゃんの家に盗聴器か盗撮用カメラでも仕掛けてるのか?」

硬い表情でそう言うフランスの言葉に、イギリスは声もない。
何故?という疑問だけがクルクルと頭を回った。

『君みたいな危険人物からイギリスを守らないといけないんだから、しょうがないじゃないかっ』
否定しないアメリカにめまいがした。

頭がガンガン痛んで、フラリと倒れかかった身体をフランスに抱えられる。

「とにかく…今日は大人しくお兄さんと一緒にお兄さんの家に来なさい」
険しい表情でそう言うフランス。

『そんなのダメなんだぞ!断るんだ、イギリス!!』
と叫ぶアメリカの通話をぷちっとフランスが切ると、そのままフランスの自宅へと連れて行かれた。


この時点ではどう見てもフランスから逃げてくる要素がないな…とスペインは思う。
腐れ縁を長年やってきて素直に言えないだけで、イギリスはフランスを頼っていたのだろう。

それがフランスからも逃げて来なければならない理由…フランスが逃げられた理由……それと同じ轍を踏まないように気をつけねば…と思った。


頼られたからにはきちんと守ってやりたい…。



その日は不安で眠れなかった。

翌日フランスに言われるまま自宅に盗聴器のたぐいがないかを調べさせたら、玄関とトイレ、バスルーム、キッチン…それに寝室に盗聴器とカメラが仕掛けられていた。

その一つはあの写真立てで……もらった時はとても嬉しかっただけにそれがわかった時はショックで悲しかった。

アメリカは一体何がしたかったんだろう…仲直りをしたいといったあの言葉は嘘だったんだろうか……

とりあえず盗聴器の類が取り外された時点で、フランスの制止を聞かず、自宅へと戻った。
が、何故か自宅前にはアメリカの姿。

怒りで頭がか~っとして、何故こんな真似をしたんだと問い詰めたら、

――君を身近に感じたかったんだ。俺はフランスと違って君ん家から遠いし…寂しかったんだ…。

と、言う姿は遠い日に『帰っちゃやなんだぞ』と泣く子どもを彷彿とさせて、それ以上怒る事ができず、ただ、寂しいなら電話をするなり、時間がある時は会いにくるなりして、二度とこんな非合法な事はしないようにと厳重注意をして終わった。

そう、アメリカは寂しかったのだ、泣きながら自分を引き止めたあの頃と何一つ変わってはいなかったのだ…と、イギリスは思った。

それからショボンと肩を落とすアメリカを自宅に入れてやってスコーンを焼いて、紅茶と共に出してやると、珍しく文句も言わず、

「たまにさ、この味が恋しくなる時があるんだ」
などと天使のような笑顔で言われて、イギリスはほわほわと温かい気分になった。





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