The escape from the crazy love_2_2

盗聴

そんな幸せな気持ちに影がさしたのは、翌日の夜だった。

その日はイギリスは休日で、丁度同じく休みだったフランスが茶菓子を土産にやってきた。
色とりどりのマカロンとフィナンシェ。

腐れ縁と言われてよく喧嘩をする二人だが、なんのかんのでフランスはよく菓子を持って遊びに来る。

それこそ1000年単位でそんな関係なので、これに対して今更どうこういう気持ちはない。

晴れの日があって雨の日がある、朝が来て昼が来て夜がくる…そんなレベルでそれはイギリスの日常で当たり前の光景だった。

おそらくフランスの方ももうそれがこそぎ落とそうとしても落ちない壁の汚れと同じような、諦めにも似た習慣なのだろうとイギリスは思っていた。
だからお互い気にしないし、誰が気にするでもない習慣なのだと思っていた。


昼前に来たフランスに昼食を作らせて二人で食べ、フランスは持参した雑誌をめくったり、時にはイギリスの庭で肥料の配合を気にしてみたりして時間をつぶし、ティータイムにはフランスが持参した菓子と合う紅茶をイギリスが淹れて二人で食べ、またダラダラ時間をつぶしつつ夕食の支度をし、夕食を食べ終わるとユーロスターに乗って帰っていく。

そんないつもの休日を過ごして洗い物を終え、昼から刺していた刺繍を楽しみつつ夜遅くなったらベッドに入り、灯りを消した。

どこまでも当たり前の日常の中でその当たり前を崩すベルが鳴る。
発信者はアメリカだ。

10時以前と夜10時以降の電話は基本的には失礼だ…そんな当たり前の礼儀はそもそも電話を使う時代より前に袂を分かってしまったために教えられなかったな…などと思いながら通話ボタンを押すと、開口一番

「イギリス、なんで君休日をフランスなんかと過ごしてるんだいっ?!」
と、若干苛立ったアメリカの声。

――はぁ?
色々な意味でポカーンとする。

「お前…なんでそれ?フランスと何か話したのか?何かあいつと揉めてるのか?」

極々プライベートな時間である。
秘書達ですら休日イギリスがどう過ごしているとか気にしてはいないし、知らせてもいない。
それを何故アメリカが知っているのかというと、自分が言っていない以上情報の提供元はフランスだろう。

しかも明らかに機嫌が悪そうなアメリカの様子から、フランスと口論でもした時に何故か話題に出てきたのだろうと推察してそう言うと、

「何?俺が知ってちゃ悪いのかい?!」
とさらに不機嫌な返事が返ってきた。

「いや…そういうわけじゃないけど…」
「まあ別に怪しいことしてたわけじゃなさそうだし、その後フランスおかずにとかもないみたいだし、許してあげるよっ」
というあたりでイギリスの脳内ではてなマークがクルクル踊りまくった。

「おかず?何のおかず?昼食と夕食ならフランスが作ったけど……」
「君…からかってるのかい?それともとぼけてるの?
俺は子どもじゃないんだからいい加減そういう誤魔化し方やめてくれないかい?!」

何がなんだかわからないが、せっかく昨日回復したように思えたアメリカのと仲がまた悪くなってしまったらしい。

ああ、フランスの奴何言ったんだ…と、イギリスの目にジワリと涙が浮かぶ。
するとそれをまるで見ているかのようにアメリカの声音が柔らかくなった。

「ああ、泣かないでくれよ。可愛いけど、他の奴の事で泣かれるのは嫌なんだぞ。
とにかく、これからはあんまりフランスとイチャイチャしちゃ嫌なんだぞ。
俺もなるべく休暇合わせて取るからね。
じゃ、おやすみ」
最後にチュッと言うリップ音と共に、イギリスの返事など聞くこともなく電話が切れる。

結局何がどうなっているのかわからない。

ただひとつわかるのは……

『アロウ?坊ちゃんどうしたの?こんな時間に。
お兄さん何か忘れ物でもしてた?』
「ざけんなっ!クソ髭っ!!アメリカに何言いやがった?!」

おそらくこいつが諸悪の根源なのだろう。
速攻電話をかけて罵ると、電話の向こうではおそらくポカーンとしているらしいフランス。

『ちょ、なんでアメリカ?何か言ったっていつの話?』
「…今日。少なくとも昨日の夜以前ではない」

そう、昨日訪ねて来た時は機嫌が良かった。

『…何かの間違いじゃない?お兄さん夜までお前さん家いたじゃない。
それから自宅帰ってずっと1人よ?
もちろんアメリカと電話なんてしてないし…』

「じゃあなんであいつ、今日お前が俺ん家来たなんてこと知ってるんだよっ!」

『……お前は……言ってないんだよね?』
「当たり前だろっ。お前が帰ったあと洗い物して刺繍して、さあ寝ようって思ったら今アメリカから電話が来て……」

『…………』
「…おい、髭?」
『お兄さんこれから坊ちゃん家行くわ。
ね、お兄さんが着くまで誰が来てもドア開けちゃダメだよ?』
こちらもイギリスの返事も聞かずにプツリと通話が切れる。

「…一体…二人共なんなんだよ……」


もやもやとした気味の悪さをごまかすように口を尖らせてそう言いながら、イギリスはとりあえず愛用のティディベアを抱きしめて、フランスの到着を待つことにした。




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