「鍵っ!鍵かけろっ!早くっ!!」
と、イギリスは開けたドアから薄い身体を室内に滑りこませてくると、今度は早く閉めろとせっついた。
さすがにスペインも呆れ返るが、当のイギリスはスペインの行動を待っていられないとばかりにガチャリと自分で鍵をかける。
カタカタと震える身体。
そう寒い季節ではないと思うのだが、寒いのだろうか?
「しゃあないなぁ。とりあえずこれ羽織っとき。
今ショコラータいれたるわ」
スペインはそう言って自分のカーディガンを脱いでイギリスに羽織らせると、くるりと反転、キッチンへ向かいかけたが、そこできゅぅっとヨレヨレのTシャツの裾を掴まれた。
「なん?」
と言いながらも歩を進めると、なんだか幼児返りでもしてるのだろうか…イギリスは鼻をすすりながら
「置いていくなよ、ばかぁ…」
と、スペインのシャツを掴んだままトテトテとあとをついてくる。
へ?
思わず振り返るスペインをイギリスは潤んだ瞳で
「…なんだよ?」
と見上げた。
いやいやいや、自分の方がなんなん?と思いつつも、あまりに常とは違う状況にこれを指摘していいかもわからない。
結局
「いや、なんでも…」
と、スペインがまたくるりと前を向いてキッチンへと歩を進めると、またイギリスはシャツの裾を掴んだままトテトテとついてくる。
キッチンへ付いてショコラータを入れている間もイギリスはギュッとシャツを握ったままずっと後ろに立ったままだ。
脳内はてなマークでいっぱいになりながらも、両手にマグを持ってリビングへと移動すれば、やっぱりトテトテついてくる様子は、まるで小さな子どものようでなんだか可愛らしかった。
しかも振り向いた時に目に入ったイギリスは、背はさして変わらないものの肩幅が違うせいか、スペインのカーディガンを着るとだぼっとしていて、肩が落ちている分袖が長くなり、手が半分隠れていて、涙でいっぱいにした大きな目も相まって本当に幼く見える。
――これ…突き放したら親分人非人やんな?
と、内心ため息をつきながらソファに座るスペイン。
イギリスも当然その隣にピッタリくっつくように座ってくるので、イギリスの分のマグを渡してやると、礼を言って黙って飲み始めた。
クスンクスンと鼻を鳴らしていたのが、ショコラータを口にしてほわわ~っと擬音が聞こえてくるような表情になる。
普段の取り澄ました様子が嘘のように、今日のイギリスは表情豊かだ。
「で?自分今日はどないしたん?
随分甘えっ子やん」
こうなるとヨーロッパでは古参で、かつては多くの小国を育てていた親分気質が頭をもたげてくる。
思わず反射的に頭を撫でてしまってからシマッタ!と思うが、意外な事にイギリスは怒りもせず、それどころかスペインにぎゅうっと抱きつくと、子どものようにシャクリを上げ始めた。
へ?…ええ??!!
一瞬驚くものの、ヒックヒックと自分を頼りに泣きついてくる子どものような存在は可愛い…。
もう随分と長い間こんな風に頼られる事がなかったため、懐かしさと共にどこか心の奥がほわほわと暖かくなってきた。
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