不安で涙があふれてきて、アーサーは泣きながら、それでも弟を抱き上げた。
何をするにしてもしなければならないにしても、まずは今日の食事だ…。
そう思って真っ赤な顔をして泣く弟の口元に哺乳瓶の乳首を押しあてるも、赤ん坊は嫌がって顔をそらせる。
と、アーサーは目を見開いた。
「…お腹…空いてるだろ?ほら、ミルクだぞ」
と、さらに反らした顔を覗き込んで口元に乳首を持って行くも、やっぱり嫌がるように赤ん坊はさらに顔を反らして悲しげに泣く。
…何故…?……どうして?
…俺はお前のために……
まるで自分自身が拒絶されているように感じて、アーサーはさらに悲しくなって泣きだした。
確かに母親ではないけれど…一生懸命やろうと思っているのに…
…どうして…?どうして?
「…俺じゃ…ダメ…なのか…よぉ……」
最後はワンワン泣き出して、泣いて泣いて泣いて……
アーサーの涙も枯れ果てた頃、赤ん坊の方は泣き疲れたように眠ってしまう。
マンションに戻ってきたのは夜だったが、そうやって泣いているうちに気づけば朝日がのぼっていた…。
しかし事態は変わらない。
赤ん坊は悲しそうにちゅぱちゅぱ指をしゃぶっているが、ミルクを作りなおしてもやっぱり飲んではくれない。
どうしよう…どうしよう……
気持ちは焦るし不安だし…なにより悲しくて、なにもかも投げ出したくなった。
二度目もダメ…三度目に作りなおしたミルクをやっぱり拒否されたところで、もう枯れ果てたと思っていた涙がまた溢れてくる。
…助けて…誰か…誰か、助けて……
と思うものの、唯一アーサーが頼れる叔母に助けを求めたら、やっぱり面倒を見られないのだから弟を施設に…と言われるのは目に見えている。
それは出来ない…いやだ……
…しっかり……しっかりしろ……しっかりしなきゃ……
と、自分に言い聞かせるように呟くが、もう4度目のミルクを作りなおす気力もわいてこない。
でも…何か飲ませてやらなければ……
自分自身も泣きすぎて目の前がくらくらする。
そんな中で鳴るドアのチャイム。
ぴんぽ~ん…と鳴るそれが、一瞬何か遠くの出来事のように思えた。
しかしぼ~っとしていると、もう一度鳴るそれに、ようやく誰かが訪ねてきたのだと理解する。
――……はい…?
普段でも滅多に誰かが訪ねてくる事などないのに、こんな時に誰が?
そう思いながらおそるおそる応じると、ドアの向こうからは
「すみません、隣に越してきたバイルシュミットです。引越しのご挨拶に来ました」
との声。
ああ…そう言えば隣の空家に誰か入るようで、引っ越し屋が来ていた気が……
回らない頭でぼんやりそんな事を思いつつ、アーサーはフラフラとドアを開けた……
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