赤ん坊狂想曲5

「ご、ごめんなっ?!こんな赤ん坊抱いて出て来たからてっきり……」

とりあえず先に赤ん坊の飢えを満たすべく手早くミルクを作って飲ませながら、ギルベルトが謝罪すると、アーサーは複雑な表情ではあるものの、

「…別に……体格良くないのもあってたまに間違えられるから……」
と答える。

「あ~でもそれで納得だ。
そうだよな。こいつたぶん23カ月くらいだろ?
母親がミルクの作り方もわからずいたら、これまでどうしてたって思うよな」
と、苦笑しつつ、赤ん坊が飲み終わった哺乳瓶を置いて

「偉いな、弟と留守番か?
おふくろさんは?」
と、寝起きでぴょんぴょん跳ねた金色の頭を撫でると、アーサーは俯いた。

「…死んだ……」
「…へ?」
「…事故で…親父と一緒に3日前に…。
で、昨日葬式で…それまでは親戚のおばさんがみててくれたんだけど……」


お~~い!!!!
まじかっ?!と思う。

これは…聞いて良かったのかまずかったのか。

と、ギルベルトが悩んでる間に、少年はげっぷをさせるために縦抱きにした赤ん坊をぎゅっと抱きしめたままぽろぽろと涙を零した。


「…アーニー…施設にっ…やるって……
だからっ…俺っ…引き取るからって…言って…っ…
俺がっ…育てるって……」

「ちょっと待てっ!!
お前さん自身、保護者必要な年だろっ?!
学校とかどうしてんだっ?!」

アーサーが泣くと釣られたように赤ん坊も泣き始めた。

ヒックヒックとシャクリをあげる細い肩を赤ん坊ごと腕の中に抱きしめると、ギルベルトはその背をぽんぽんと宥めるように叩いてやる。

「うん…まあ…大変だったな。
自分の面倒だけでもどうしよう状態なのに、心細かったよな…」
と言ってやると、腕の中の少年は泣きながらコクコクと頷いた。

あ~これ法的にどうなんだ?問題ないのか?と思いつつも、法よりもとりあえず人道的に放置は出来ないだろう。

ちょうど全ての手が離れた自分がこうして隣に越して来たのも神様のお導きと言うやつかもしれない。

「えっと…今後頼れる当てとかはあるのか?」
と、まずそこからかと聞いてみるが、案の定、横に振られる首。

まあ、そうだよな。
あったらこんな事になってねえよな……
と、そこでギルベルトは腹をくくった。


「わかったっ!俺様が一緒に面倒見てやるよ。
こう見えても育児はプロだ。任せとけっ!」

「…え……?」

ヒクっ…とシャクリをあげたあと、驚いたように見上げてくる涙いっぱいの目は赤ん坊と変わらず心細さをいっぱいに湛えている。
これを見捨てたりしたら、人間としてどうかと思った。


「俺様な、ちょうど育児を終えて1人立派に独り立ちさせて、子離れのためにここに引っ越してきたんだわ。
だからまさに今、すげえ手が空いてるし、手伝ってやれるから。
大丈夫。心配すんな」
と、安心させるように笑みを向けてやると、その目には少しの迷いと多くの安堵がみてとれる。

「子育てを終えた子育て経験者が今子育ての手が必要な奴の隣に越してきたってのは、いわゆる神様のお導きだ。
素直に従っておけ」

と、そこでさらに背中を押してやると、大きな目に今度は先ほどとはおそらく違う意味でじわりと涙が浮かんできて、少年は赤ん坊ごとギルベルトにぎゅっと抱きついてきた。

こうして需要と供給の一致をみたところで、ギルベルトの再度の子育て生活が始まったのだった。



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