赤ん坊狂想曲3

――泣き…やんだ……

ンクンクと必死の形相で哺乳瓶に吸いつく赤ん坊。

その赤ん坊と同じくまだ涙の残る淡いグリーンの瞳が驚いたように見開かれ、小さく感嘆の声が漏れる。


「ん、腹が減ってたみたいだな。
てか、あのミルク?なんだったんだ?」

140CCほどのミルクを一気飲みした赤ん坊を今度は縦抱きにして、背中をさすさすとさすってげっぷを促してやりながらギルベルトが聞くと、まだ自分の方がいとけない様子の幼い母親は

「…普通に作った…つもりだったんだけど……」
と、しょんぼりと俯いた。


ギルベルトが挨拶に行った時に出て来たのは、顔を真っ赤にして泣く赤ん坊を抱いた若い母親?だった。

ドアが開いた瞬間、シャクリをあげながら顔を覗かせた母親に思わず

「大丈夫か?あの…俺様自分で言うのもなんだけど育児経験かなりあるんで、みてやろうか?」
と声をかけると、彼女は少し迷ったようだが、

「少なくとも隣に住んでるんで怪しいもんじゃねえよ。
心配なら名刺渡すけど?
今日は有給取ってるけど、ワールドコーポレーションのシステム部の課長やってるから、なんなら会社に問い合わせてもらってもいい。
とりあえず何か足りてねえだけなのか、病気なのかの確認だけでも…。
体調悪いようなら月齢低いみたいだし、早めに病院連れて行ってやらねえとだと思うぜ?」
と言うと、そこでようやくこっくりと頷いた。


こうして通された部屋。

ベビー用品がごちゃっと広げられていて、リビングのテーブルの上には哺乳瓶に入ったなにやら怪しい紫の液体。


――ミルク…全然飲まないし、病気なのかも……
とその哺乳瓶を手にするところを見ると、ミルク…のつもりなのかもしれない。

「えっと…な、粉ミルク…だよな?
ちょっと俺様作りなおしてみるから、キッチン借りるな?」
と、予備の哺乳瓶に粉ミルクを作りなおしてみる。

このあたりは昔取った杵柄だ。

カルキを抜いたうえでお湯を60度保存してくれるなんて便利なポットがちゃんとあるので、余裕で出来る。

それを手に
「ちょっと貸してみな」
と、赤ん坊を受け取ると、横抱きにして哺乳瓶の乳首を口元に……

すると、もうチュウチュウなんて生易しいものじゃない。

エッエッと泣きながらもゴンゴンと言った勢いでミルクを吸い上げる赤ん坊。
目を丸くする母親。

そうして念のため…と聞いてみると、

…栄養…あった方が良いと思ったから……
と、何やらいれてはいけないものまでいろいろ混ぜた結果の紫だったらしい。

(…いったい今までどうやって生きて来たんだよ、この赤ん坊…)
と、それを聞いてため息をつくギルベルト。

それでもとりあえず

「あのな、粉ミルクってのは赤ん坊に必要な栄養全部入ってるからな?
小さな頃ってまだ消化する力とかが強くねえから、余分なものいれたら腹壊したり、アレルギーになったり、下手すれば死ぬからな?
だからミルク以外のモン溶かしたらダメだぞ?」
と、言い聞かせつつ、思い切り目に隈を作っている母親に

「とにかくあとで一度一緒に作ってみような?
その前にお前さん少し休んだ方が良い。
俺様がこいつみててやるから、2,3時間仮眠とっておけ。
こいつ首すわってねえし、まだ3,4時間おきくらいの授乳感覚だろ?
夜ゆっくり眠れねえだろうしな」
と言ってポンポンと頭を撫でてやると、おそらくもう疲労が限界で頭が働いていないのだろう。

こっくり頷いてリビングのソファでブランケットをかけて眠り始めた。


本当にギルベルト自身すら自分の身内だったら危ないから追い出せと忠告しかねないレベルで立ちいっていると思う。
しかしまあ…不用心だなとは思うが、おかげで助けの手を取ってもらえたから良しとする。





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