寮生はプリンセスがお好き4章_10

まあ一応アルがねだるまでもなく、交流会もまずは定番通り乾杯から始まるわけで、案内係が丁寧に右手で一つ一つのグラスにナプキンを添えながら、左手でジュースのピッチャーから各グラスにジュースが注いでいく。


そして全部のグラスにほぼ同量のジュースが注がれ終わると、各自グラスを手に取るように促された。

そこでそれぞれ中央に置かれた大きな丸テーブルの周りに集まってグラスを手に取る。

すると広間の奥、闇から浮き出るように男が1人現れた。
案内役の男と似たような初老の男。

招待客の寮長達が身に付けているのと同じような白い仮面で顔上半部を覆い、白いシャツに黒いズボン、そして紫のジレーを身に付けて、その上からマントを羽織っている。
ふわりと風の流れもないはずなのにたなびくマントは表地は黒で裏地は真紅。
どことなく映画のドラキュラ伯爵のようだ…と、それを見てアーサーは思った。


「寮長、副寮長のみなさま、本日は足をお運びいただきありがとうございました。
わたくしは本日、私立シャマシューク学園新理事長プレジデントEの代理として皆さまの饗応役を務めさせていただきます。
そうですね…バトラーとでもお呼び下さい。

まず本日の主旨として、前年度までは新寮長と新副寮長の交流イベントとされていた当イベントですが、本年度から理事長が変わった事もありまして、新に限らず全寮長および副寮長の交流のためのイベントに変更する事になりました。

特に副寮長を寮の象徴するプリンセスとして遇するという制度は我が校独自のもので、今年度新たに任命される事になった新1年生の副寮長の皆さまは色々慣れぬこと、わからぬことも多いと思いますので、この機会にぜひ先輩プリンセスにお話を窺って頂ければと思います。

とりあえず…まだ1名、皆さんの大先輩にあたられる今年大学を卒業なさった元プリンセスがお仕事の関係で到着が遅れていらっしゃるようなので、いったん先に乾杯させて頂いて、到着なさってからさらに再度乾杯をという形を取らせて頂こうと思いますので、皆さま一旦グラスを手にお取り下さい」


バトラーと名乗る男はそう言って自らも右手に持ったグラスを大きく掲げ、乾杯の音頭を取った。


「「乾杯!!」」
と皆が声を揃え、カチン、カチンとグラスが合わされる音が響く。

アーサーもギルベルトや香、アルやフェリシアーノなど友人知人とグラスを合わせ、それほど喉は乾いてないのだが形だけ口をつけようとしたところで、スッと手が伸びてきてグラスを取りあげられた。

「…ギル?」

自分のグラスをいったんテーブルに置いてアーサーのグラスに唇を寄せるギルベルトに疑問の視線を送ると、ギルベルトは少し中身に口をつけてそれをアーサーの手元に戻すと、

「あ~、一応な。
まあ学校側が用意したもんならそういう事もないとは思うんだけどな、以前この手の乾杯用のドリンクにアルコールとか酢とか塩とか混ぜた馬鹿がいたから、念のための味見」
と、苦笑する。

なるほど、学生の悪ノリとしてはありがちな悪戯だ。

しかしまあギルベルト本人が言うように用意したのが学生じゃないので、そういう事もないだろう。
返されたグラスの中身は普通のグレープジュースだった。


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