その後、戻ったルートと一緒に頑なに固辞するアーサーの荷解きを手伝ったら、
まあ出て来るわ出て来るわ、クマの山。
「べ…別にヌイグルミが好きとかじゃなくてっ…えっと…そう、自宅には人がいなくなるから埃を被るし、そうなるとクリーニングとかが大変だから……」
などと必死に言い訳をする。
「あ~…でも俺様は小鳥グッズコレクションしてるし、ルッツもクマ好きだよな?」
見せてやろうか?と、ギルベルトが笑いかけると、少年は
「クマ?ティディ、好きなのか?」
と、少し嬉しそうな顔をする。
普段はあまり他人にそんな話をしたりはしないルートも、そんな顔をされれば否とは言えない。
「あ、ああ。コレクション…というほどではないが、愛らしいので何体か所持している」
と、赤くなって頷いた。
「そうなのかっ。どんな子を持ってるんだ?」
途端に嬉しそうな目で顔をあげる少年に、ルートはさらに照れながらも
「シュタイフ製のコージーテディベアとか…あ、日本限定のサクラも色合いが愛らしいと思う」
「あー!サクラ!!この子かっ!」
と、ごそごそと鞄を漁って大事そうに出して来るピンク色のティディ。
「おお、それだっ!」
「すごいなっ。日本限定1500体なのに、こんなに側に同じティディを連れてる仲間がいるなんてっ!」
などから始まって、延々と続くティディ話。
(なるほど…それなら……)
ギルベルトはそっとスマホを出して、ネットで検索。
秘かにポチった。
そして…さりげなく言う。
「ピンクのティディか。
実は俺様以前オークションで買った奴が自宅にあるんだけど、日本限定のやつ。
良かったらプレゼントさせてくれ」
その言葉に少年は
「え?!良いのかっ?!
じゃ、この子と双子だな~」
と目を輝かせた。
「ああ。なんかちょっとリボンの色が違うけど」
「え?」
「リボンがピンクじゃなくて金色だった。大きさももうちっとデカイな」
「えええええっ!!!!」
そして絶叫。
「ちょ、まさかシュタイフ 2003年日本限定20体テディベアビッグモモテディベア?!!!!」
大きな目が零れ落ちそうに大きく見開かれる。
「あ~…そんなんだった気が……よくそれだけでわかるな」
「わかるに決まってる!!!
この子よりずっと大きいんだっ!抱きしめ心地がよさそうな…
でもすごく高いんじゃ……」
「ん~~どうだったかな」
「さすがに数十万単位の子をもらうわけには……」
しゅんとなる少年。
そこで言ってやる。
「クマの価値って値段なのか?
可愛さとか愛情じゃなくて?」
「違う……けど……」
「そのクマ、可愛いと思えないか?」
「そんなこと絶対にないっ!!」
と、それは真剣な顔で少年は大きく首を横に振った。
そこでギルベルトはニコリとたたみかける。
「さっきお姫さん、クマ達が実家で手入れをされる事もなく埃を被っちまうから連れて来たって言ったよな?
このクマはまさにその状態なんだが…可哀想だからもらってくんねえ?」
そのギルベルトの言葉に、少年はウっと言葉に詰まった。
「自宅で埃被ってるより、お姫さんに寮内連れ歩いてもらうほうが絶対にクマも幸せだと思うんだけどな…」
「………」
「…な?」
と、さらに押すと、少年はこくりと頷く。
「もらえない…けど、預かるだけなら…」
「預かり子でもちゃんと可愛がって連れ歩いてやってくれな?」
実質もらわれるようなものだし、逆に自分の物をお姫様が常に手元に置いていると言うのも悪くはない。
そう思ってギルベルトが念押しすると、お姫様は
「もちろん!」
と大きく頷いたので、
「じゃ、今度実家から連れて来るわ」
と、約束をした。
まあ…実際にはまだ実家にも届いてないわけだが、届いたらこちらに送らせようと思う。
個人的な感情を別にしても、ピンクの大きなティディベアを常に持ち歩いているプリンセスと言う図も、銀狼寮の象徴としてはインパクトもあって良いだろう。
ちゃんと趣味と実益を兼ねた形に持って行く俺様GJ!
心の中で叫びながら、ギルベルトは上機嫌でプリンセスと愛する弟のために備え付けのキッチンで再度菓子を作り始めた。
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