フランスはイギリスが好きだった。
それはもうイギリスがまだイングランドとすら呼ばれて無くて、お得意の『ばかぁ』という言葉が『びゃかぁ』だった昔からという筋金入りだ。
皆にちやほやともてはやされていたにも関わらず、西暦1000年、世界の終わりが来ると信じられていた時に最後に一緒に過ごす相手に選んだのは、海を超えた隣に住む金色毛虫だった。
そんな皆のアイドルがそこまで特別扱いをしているにも関わらず、この金色毛虫はそれがどれだけ素晴らしいことかもわからず、『ばかぁ』を繰り返す。
美味しいお菓子に綺麗な洋服、最期の時に一緒に過ごす権利まで与えたにも関わらず、まったく素直に喜んではくれない金色毛虫に、それでもただただ優しくだけ接するほどフランスも大人にはなれなかった。
こうしてさらに1000年。
腐れ縁の喧嘩友達と言う関係がすっかり定着してしまい、国同士の関係は列車でつながったりと良好になった今も、2人は喧嘩を繰り返している。
それでもフランスは美味しい菓子を作って食わせてやったり、人の輪に入れないイギリスをからかいながらも仲間に入れるように誘導してやったりと、十分色々尽くしていると思うのだが、イギリスの側はそんなフランスの気づかいに感謝する様子はない。
顔こそ可愛らしいものの、人見知りで皮肉屋で、過去に色々やらかしているせいで怖がる国、煙たがる国多数。
そんなイギリスを愛してやれる相手なんて、愛の国の自分しかいない。
フランスにはそんな自負があったし、実際そうだろう。
なのにイギリスはそれに気づく様子もなく、愛されたがりで他に愛情を求めてさすらい続けるのだ。
いい加減にすればいいのに…と、そんなイギリスを見てフランスは常々思っている。
その気になれば相手はいくらでもいる自分の側から折れてやるのはしゃくなので嫌だが、イギリスの方から愛を求めてくれば、与えてやる気はたぶんにあるのだ。
そう、イギリスの方から求めてくるのならば…
なのでフランスは待った。
随分長い間待った。
でもイギリスはすぐ側にいる青い鳥に気づく事なく、遠くに目を向けてさすらい続ける。
そんな無駄な時間を費やし続けるのが、フランスはだんだん嫌になって来た。
これは…イギリスにはもう自分の他には愛を与えてくれる相手など誰もいないのだと言う事をわかってもらうしかない。
ということで追い詰めてみることにした。
宅呑みをセッティング。
美味しいお酒を用意して、ツマミは若干少なめに。
判断力が鈍る程度に…しかし完全に酔いつぶれたりはしない加減で飲ませる。
そんな事が出来る程度には、フランスはイギリスを知りつくしていた。
ほどよく酔ったイギリスは案の定フランスの仕掛けたゲームに乗って来た。
そうしてゲームを仕掛けて勝ったらその時初めて条件をだす。
条件は誰か国体に告白してＯＫをもらう事…。
日本やポルトガルなど、仲の良さそうな国は恋愛感情がなくともＯＫしてくれてしまうからと除外すれば、もう当てはないはずである。
あとは待てば良い…。
拒絶されて自分が一人ぼっちだと泣きながら戻ってくるのを……
そうしておよそ半月。
今日はイギリスでの二国間会議だが、これまでイギリスからの連絡はない。
ＯＫをもらえたなら得意げに言ってくるだろうから、おそらく見つからなかったのだろう。
まあ、そう誘導したわけなので、見つかっても困るわけなのだが……。
とりあえず落ち込んではいるだろうから、会議後、飲みにでも誘ってやろう。
そんな事を考えながら会議に臨んだフランスだが、時間になって会議室に姿を現したイギリスは特に落ち込んだ様子もなく、淡々と議題をこなす。
おかしいなぁ…と一瞬思うが、まあ仕事人間のイギリスの事だからプライベートで落ち込んでいたとしても会議中に表情にだすような事はないのだろう。
そう思ってフランスも淡々と会議に没頭する。
そして待ちに待った会議後……
「坊ちゃん、この前の賭けどうなったよ？」
互いの秘書が退出して国体2人、それぞれに帰り支度を始めたタイミングで、フランスはそう声をかけてニヨリと笑う。
泣くかキレるか？
そう思って待っていると、目の前でイギリスの真っ白な顔が見る見る間に真っ赤に染まった。
「…あ…あれなっ……」
恥ずかしそうに目を潤ませるイギリスに、案の定みつからなかったか…と、
――坊ちゃん人づきあい下手だしね…仕方ないからお兄さんが……
と、切りだそうとすると、なんとその口から出た言葉は…
「…こ、こいびと……できた……らしい……」
と消えそうな声で俯く。
「…へ？？？」
思わず間抜けな返答を返すフランスに、イギリスは耳まで真っ赤になった。
「…一緒に暮らしてる……っていうか……今日も付いて来てるっていうか……
あ、違うぞっ！最後まではやってないからなっ！！
そういう事はちゃんと籍いれてからってあいつが……」
なんて聞きたくもない、耳を疑うような言葉まで飛び出して来て、フランスは呆然だ。
ありえなさすぎてもう言葉もなく佇んでいると、コンコンと会議室のドアがノックされる。
――もう終わったか？
と、ドアの向こうから聞こえる声。
え？何故ここに？
と、もう色々が混乱しすぎて結びつかず、フランスはその聞き覚えのある声に、自ら走り寄ってドアを開けた。
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