――ひと肌ってね、案外安心感与えるもので、精神の安定っていうのは時に体調の安定にもつながるのよ。
前回体調を大幅に崩したのは薬の飲みすぎによる副作用、胃痛との事だが、それを知っていて薬師エリザベータはアントーニョにだけではなく、アーサーにもそう告げた。
そもそもアーサー自身に選択権はないわけだし、言われるまでもなくアントーニョと一緒にいるしかないことはわかってるわけで…。
さらに普通の女性ならアントーニョのように強くてカッコよくて優しい上に強国の国王なんて人間を前にしたら、アーサーみたいな貧相な子どもより自分の方が…と、アーサーを押しのけて自分が近づこうとするものだと思うのだが、エリザベータはそれがアーサーの健康のためにも良いからと、なるべくアントーニョがアーサーの近くにいるように取り計らってくれる。
彼女は本当に医は仁術と言う気持ちを持った、良い医者なのだろう。
アーサーがそう言ったら、何故かギルベルトは複雑な表情をしていたが……。
そんなエリザの勧めで、最近は寝る時までアントーニョと一緒だ。
――これならアーティーの容体が変わったらすぐ気づいてやれるから、ええな。
と、戦場に転がされていた得体の知れない自分なんかと普通に一緒に寝てしまうアントーニョも大概人が良すぎるとは思う。
それでもニコニコと嬉しそうに自分を抱え込むアントーニョを見ると、やめろとは言えないのだが……。
最初の頃は本当にドキドキした。
なにしろアントーニョは寝る時は上半身裸だ。
男らしく日に焼けた肌。
見た目はそこそこ細身だが、しっかり筋肉がついている胸元にがっしり引き寄せられ、抱きしめられると、香水の匂いにまじってアントーニョ自身の体臭なのだろうか…お日様の匂いがする。
それは決して不快ではないものの、人慣れないアーサーにとってそんな近い距離にずっと人がいる事は初めてなので落ち着かない。
ましてや…同性ですら見惚れるほど整った容姿で、甘やかな笑みをうかべながら、眠ってしまうまで愛おしげに髪や背を撫で続けるというおまけつきである。
――おやすみ、親分の可愛えお宝ちゃん。ええ夢見ぃや。
と、毎晩額に口づけられ、眠る日々。
距離の近さに落ち着かず、眠れないでいると、
――アーティー、気分悪いん?体調悪うなったら遠慮のう言いや?
と、綺麗なエメラルド色の瞳で心配そうに顔をのぞき込んでくるため、無理にでも目を閉じて眠ったふりをするしかない。
だが、そうしているうちに本当に眠くなって眠ってしまうというのを繰り返していて、いつのまにか慣れてしまったようだ。
最近では少し高めのアントーニョの体温に包まれていると安心して眠れるようになった。
むしろ最近ではアントーニョがいないと熟睡できない気がする。
もしも…最初のギルベルトとの契約の通り、アントーニョが自分に飽きてしまう時がきたら、自分はどうするんだろうか……。
ああ、でもその時こそ、本当に死ねばいいんだよな…と、そこでまた死ねるということに安心するのだった。
そんな風にアントーニョに出会って一緒にいるようになってから、死にたがり屋だったアーサーから少し死というものが遠ざかっていた。
それはすなわち現在の状態が快適で落ち着いているともいえる。
しかしそれもまた、まだ小さなきっかけで簡単に崩れ落ちる脆い平穏であった。
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