ぺなるてぃ・らぶ_Verぷえ_2

――とりあえず水分補給して休め。話はあとで聞いてやっから


自宅に招きいれられてわかったことだが、どうやらイギリスがチャイムを押すのをためらうまでもなくプロイセンは留守にしていたらしい。
ジョギングに出ていたとのことだ。


トレーニングウェアを着たプロイセンは自宅前で倒れかけていたイギリスを見つけ、そのままヒョイッと抱え上げて家に入ると、居間のソファにおろしてクルリと反転、キッチンに行ってミネラルウォータを入れてきてそれを手渡し、目の前で屈伸をしている。


こんな状況でも本当に動じない男だ…と、イギリスがグラスを手にそれをぼ~っと眺めていると、

――良いから飲めっ!
と、ピシッと指をさして命じて来た。


上からモノを言われるのは普段ならカチンと来るところだが、考えてみればアポなしでいきなり訪ねて来た挙句に自宅玄関前で倒れかけるなんて迷惑をかけているのだ。
ここはさすがに怒れる立場ではない。

「…いきなり…訪ねて来てこんなんで…悪い…」
と、しょぼんとして謝罪すると、プロイセンは屈伸を止めてため息をついて、イギリスの前に立った。

「…怒ってるわけじゃねえよ。いつでも気軽に来いっつったのは俺様の方だしな。
ただ、心配してんだよ。
熱射病や脱水症状でも起こしてたら大変だろうが。
良いから少し水分補給しろ、な?」

と、くしゃりとイギリスの頭を撫でると、グラスを握ったままのイギリスの手をとって、その口元へと誘導する。


「ほら、良い子だから…」
と、さらに宥めるように言われて傾けられるグラス。
口の中に入り込んでくる水をイギリスは仕方なしに飲み込む。

そして思った。
本当に…自分は馬鹿なんじゃないか…と。
でも…悔しかったんだ…。
本当だから悔しかった…。

「…っ…ふっ…フランスっ…がっ……」

何故だか優しい手に涙が止まらなくなって、シャクリをあげ始めるイギリスに、プロイセンは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐ小さく息を吐き出してぎゅっとイギリスの泣き顔を隠すように胸元に引き寄せ、背中を軽くぽんぽんと宥めるように叩く。


「…本当に…お前らよく喧嘩すんなぁ…。
その割にしょっちゅうお互い行き来するし……」

と、まるで兄弟喧嘩をやんわりといさめる親のようなプロイセンの声音に、イギリスは思わず甘えるようにその厚い胸板にコシコシと顔をすりつけた。

「…あんな奴っ…大嫌い…だっ」
「おう、そうかよ」
「…俺が…誰か好きとか言っても…好きだ…って…応えてくれる奴っ…いないっ…てっ……」

「あ~、なるほどな。それで俺様んとこ来たのか」
と、嗚咽を漏らしながらの訴えを、プロイセンは何故か正確に読みとったらしい。

「ほいほい、わかった。じゃ、俺様に言ってみな?好きだって」
と、少し身体を離して、イギリスの頬を両手で包みながら、プロイセンはイギリスに視線を合わせた。

その返しは予測していなかった。
イギリスはぽかんと目を丸くした。
しかしプロイセンは続ける。

「ほら、俺様ならちゃんと応えるって思ったから来たんだろ?
応えてやるから言ってみろ」

「…え……」

「ほら、・だろ?」
と、まるで子どもに言葉を教えるようにゆっくり言うプロイセンに釣られてイギリスが思わず

「…す……き?」
と繰り返すとプロイセンは
「よくできました」
と、頭をくしゃりと撫でた後に
「俺様もアルトの事好きだぜ?」
と晴れやかに笑った。

なんの含みもない善意…。
それにホッとした。

ホッとしすぎて

「これで大丈夫か?」
と、またくしゃりと頭を撫でながら小さな子どもを労わるように言ってくるプロイセンに

「大丈夫じゃない…」
とついつい口にする。

「ん?あとはなんだ?」
と、とことんイギリスの側の都合に付き合ってくれるつもりらしい。

プロイセンはさきほどからずっとそうであるように頭を撫でながら笑みを浮かべて聞いてきた。

もう…遠慮とか諸々考える事もなく、イギリスは言う。

「好きって言ったって事は告白したって事だ」
「おう?そうだよな?」

「お前はそれでお前も俺の事好きだって言ったって事は告白にOKを出したって事だ」
「ああ、そうだな?……それで?」

「…それで………」

そう、だからどうなるんだと言われると悩む。

一応任務は完遂されている気がする…するのだが、プロイセンに告白してOKをもらったと言って…フランスは信じるのか?


「告白してOKして欲しかったんだ…」
「おう、そうみてえだな」

で…どうすればいいんだ……

と、告白された側がそんな事を尋ねられても困るだろう。
というか、自分で強引にそうだと決め付けたが、あれは告白に入るのか??
しかし、何をどこまですればフランスに勝った事になるのだろうか……。
悩むイギリス。

そうやって悩んでいると、またもプロイセンが答えを出してくれた。
いわく…

「とりあえず付き合えばいいんだろ?
今から俺はアルトの恋人な?」


フランスとその話をした時には酔っていて…そしてこの時は日射病になりかけで頭がぼ~っとしていたのだと思う。

なんの疑問も抱かずにプロイセンの言葉にイギリスは頷いた。
そう、あとで思い切り自分の軽率さに頭を抱える事になったのだが、この時は確かに頷いてしまったのだ。

こうしてイギリスは生まれてから初の同性の恋人を持つ事になったのである。




Before <<<   >>> Next (1月10日0時公開)


0 件のコメント :

コメントを投稿