死にたがりの王子と守りたがりの王様の話2章_6

「できるだけちゃっちゃと王城に帰るでっ!」

いつもなら何かしら理由をつけてはグズグズと戦場に留まりたがる王のその言葉にギルベルトは内心ほくそ笑む。

あまり人慣れていないらしいアーサーが意識してそうしているとは思えないが、何かに怯えたようなその態度が王に与える影響は絶大だ。

ギルベルトが口を酸っぱくして苦言を呈するまでもなく、安全な王城へ帰りたがる王…ああ、なんて素晴らしい。
アーサー様様だ。

もうこの際、
「ギルちゃん、ほんまトロイわ。任せておけん。
親分が総指揮とるわ」
と、お前普段は一番帰城遅らせる諸悪の根源なくせに何を抜かしやがる…と言いたくなるような偉そうな態度には目をつぶってやる。

帰路の安全をきちんと確保してから…と、飽くまで手順をきちんと追いたがる弟ルッツを、王の気が変わらないうちに…となだめながら、ギルベルトは物理的に帰り支度を整えていった。

帰路の安全?王が最前線にいることを考えたら、国内の賊など大したことはない。
王が一人で敗残兵のいる中をウロウロする以上に、なんの危険があるというのだ。

そう主張すれば、ルール大好き規則万歳の生真面目な弟も、複雑な表情を浮かべながらも渋々うなづく。


俺様頑張ったっ!超頑張った!!
ああ、早く城に帰って、快適な自室で美味しいパンケーキを頬張りたい。
胃痛よ、さらばっ!!

将軍だった頃から行きはテンション高く準備万端なくせに、帰りは渋々で帰り支度はギルベルトに任せっぱなしだったアントーニョのことだ。

こと帰り支度に関しては口を出されても邪魔なだけなので、

「お前のお姫さん、ちょっと心身ともに参ってるみてえだし、食事も少し工夫してやったらいいかもな」
と、もっともらしい事を言って、調理場へと追い払う。

アントーニョは王族のくせに、料理も得意だ。
というか、前線を転々としていたせいか、自分の身の回りの事は一通りこなす王族らしくない王族だ。
こんな、なまじ知識があるだけに首を突っ込む気満々の国王なんぞに調理場にいられたら、シェフはさぞや嫌だろうが、これまでの自分の胃に穴があく寸前の苦労の数々を考えたら、今日くらいは我慢してもらおう。

……なんて事を考えていたのが悪かったのか。

数十分後、またギルベルトの胃壁がピンチになるような事態が巻き起こるのである。




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