迷探偵ギルベルトの事件簿後編11(完)

瞳は殺人事件の被疑者として拘束されて移送され、警察も現場検証組以外はほぼ引き上げ、高校生組は帰り支度をしている。

「あの…さ、アーサー、いつか、絶対いつか借り返すから、一つだけカークランド財閥に頼んで良いか?」

アントーニョと二人、アントーニョの部屋で荷物をまとめていたアーサーをロヴィーノが訪ねて来た。

今までにない依頼にきょとんとするアーサー。

「俺…じゃなくて、財閥に…か?」
と聞き返すと、ロヴィーノは大きく頷いた。


「本当はジジイに頼むべきなんだろうけど…ジジイに言ってカエサル財閥で動いてもらうと、俺の個人の事なのに絶対に返す機会を与えられねえから。
返させてもらえねえ借り作んのは嫌なんだ」

なるほど、と、アーサーはちらりとアントーニョを見上げる。


「ま、ええんちゃう?」
と、そこでアントーニョが答えると、あらためてロヴィーノを振り返った。


「わかった。で?何をすればいいんだ?」
「腕の良い弁護士の手配を頼みてえ」

ロヴィーノの口から出てくる言葉にアーサーの後ろでアントーニョがぴくりと動く。
それを後ろ手に制してアーサーは静かに聞いた。

「それは…瞳さんのためのって事でいいのか?」
という問いにロヴィーノは首を小さく縦にふる。


「確かに…色々誤解があって俺に対して悪意みたいなもの持たれたのかもしれねえけど…すごくわかる気すんだよ。
ガキん頃から他の人間のために自分の希望、可能性、全てをつぶされて使役させられる人生…そんな人生を送らされてきた人間が人並みの幸せを求めることを、誰が否定できんだよ。

ギルはああは言ってたけどさ、俺は中学までは普通に育って、ガキん頃はそれこそトーニョが俺の事一番に気にしてくれてたし、今年からはギルが支えてくれてる。
色々言ってくる奴多くて、馬鹿にされる事も嫌ってほどあって、でもそうやって自分自身と同じくらい俺の事気にして応援してくれる奴もいるから…だからやってこれるっつ~か…。

女の子なのにな、本当なら大事に守ってもらって幸せになるべきなのに、本来守ってやるべき身内の野郎のために利用されるだけされて結果こんなんじゃ、良い悪いじゃなくて、なんだか俺がやりきれねえんだ。
だから…頼む」

そう言ってロヴィーノが頭を下げると、アーサーは黙って携帯を取り出した。

そしてかける先は…
「もしもし、香、俺。
お前が手配出来る中で最高の弁護士を手配してくれ。
詳細はあとでメールする」
それだけ言って携帯を切ったあと、アーサーは再度ロヴィーノに視線を戻す。

「あの…な、俺はギルの話にも世間の考えにも反対だ」
いきなりの発言に礼を言おうと開いたロヴィーノの口がポカンと固まった。

「ロヴィは…勉強の才能はないのかもしれないけど…上に立つ才能がないわけじゃないと思う」
「え?」
「結局…それが集団のトップとかだったとしても、人が1人で出来る事なんて知れていて、トップに必要なのは実務能力じゃなくて、実務能力がある人間にそいつのために働きたいと思わせる能力なんだ。
俺は勉強は出来たけどそのあたりが絶望的になくて、トーニョ達に出会うまでって本当に1人だったけど、ロヴィにはギルがいるだろ?
ギルくらい優秀な人間がこいつを支えて一緒にやっていきたいって心の底から思えるんだから…大丈夫。
ロヴィはきっと良い総帥になれると思うぞ」

実際に今もうカークランド財閥のトップにいるアーサーの言葉だ。
確かにそうなのかもしれない…と思ったが、それまで黙っていた後ろから声がかかる。

「ブッブ~!あーちゃんの言う事も外れやで?
確かにロヴィはギルちゃんが血迷うくらいの才能があるかもしれへんけど、あーちゃんにその手の才能ないわけないやん。
単に親分が迎えに行くまで神さんが親分がそいつら血祭りにあげんでもええように、あーちゃんの周りにその手の人間を近寄らせんでおいてくれただけや」


「お、お前、発言が怖えぞっ!!」
ひくりと顔をひきつらせて一歩後ずさるロヴィーノに、にこりと笑いかけるアントーニョ。

「ギルちゃんは別に連れてってもろてええけど、あーちゃんにちょっかいかけたらロヴィでも承知せえへんよ?
親分…ギルちゃんとガチバトルは面倒やしあんま気のりせえへんから、そのへんよろしくな?」

目が笑ってない。
本気だ。

「じゃ、俺ギルんとこ行くわっ!アーサー、ありがとなっ!」
と、シュタっと手をあげて早々に退散するロヴィーノ。

一方で後ろから抱え込まれたアーサーは耳まで真っ赤になっている。

「お前…そんな言い方したら…」
「なん?あかん?」
「……お前が度を超えて俺の事好きみたいに思われるぞ?」

………
………
………

「あーちゃんっ!!」

はぁぁああ~~と大きくため息をついて、アントーニョはがっくりとアーサーの肩口に額を押しつけた。

「あんなぁ…親分、あーちゃんに関しては世界中の誰の愛情より強い執着と愛情持っとるんやけど…。
正直あーちゃんのためなら世界征服しようが世界滅ぼそうが構わん勢いやで?」

ああ、本当に何故わかってもらえないのかが本当に謎である。

それでも……
「世界滅んだらお前も滅んじゃうからダメだぞ?」
と澄み切った大きな目で見あげられれば、それだけで幸せを感じてしまうのが悲しい男の性だ。

「ああ、可愛えお宝ちゃん、大丈夫やで?
親分の目の届かん状態にするくらいやったら、親分自分が滅ぶ前にちゃんと自分の事この手で永遠に眠らせてやってから滅ぶさかいな」
との言葉に、

「ちゃんと追いつけるように俺が死んで1分以内な?」
と、不安げに見あげる様子は凶悪なレベルで可愛い。

他人を惹きつける才能がないどころか、魔性のレベルだ。
それでもその隣は誰にも譲る気はない。

アントーニョはその言葉にこれ幸いとばかりに
「ええよ。ほな、すぐ追いつけるようにずっとそばにおらなあかんよ?」

と答えると、それを実行するように恋人を腕の中に閉じ込めた。




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