「もういいわよ。」
瞳がポケットからハンカチを出してテーブルに放り出した。
「結局…世の中は運が良い人間、悪い人間に分かれていて…運が悪い人間はどこまでたっても不幸から抜け出せたりはしないのよね…」
瞳は自嘲気味につぶやいた。
「その才能を搾取されるだけなら…ないほうがまだましだと思うわ」
瞳はキッとギルベルトをにらんだ。
「あなたみたいに海陽なんて通えてるお坊っちゃまにはわからないと思うけどね。
親が資産家の娘だった、そしてその資産家の跡取りの息子が無能だったって時点で私の人生終わってるのよ」
瞳はそう言って自嘲気味に笑った。
「小川家は代々男の直径子孫だけが家を継げるの。
女はいくら優秀だって継げないし、男はどんなに無能だって当主になれるのよ。
母はずっと実家に対して権利もないのに兄である太一の父親の尻拭いさせられて苦労してきたわ。
父は代々小川の傘下の企業の社員。逆らえるわけもない。
で、同じ年に生まれた私と太一。
母と伯父の関係はそのまま私と太一にも引き継がれた。
私は小さい頃からずっと太一の尻拭い。
太一がクラスで揉めたといえば仲裁に入り、宿題をやってやったりは当たり前。
こっそり受けて受かったSランクの都立だって太一のフォローができなくなるからってだけの理由で辞退させられて、太一が受かった中堅私立高に通わされる事になったわ。
そんな中で太一を好きだって言う紗奈に出会って…仲取り持ってくれれば太一の事全部引き受けるって言うから協力したのよ。
私は何も要らないから、ただ小川の家から逃げ出したかった。
だから紗奈を私の友人として紹介して、他の友人、中田やジェニーを引き込んで一緒にいる時間を多く作るように努力したの。
なのにある日…紗奈が私がいないところで他の友人と話してたのよ。
太一は資産家の息子だから彼を落とせば…面倒な事はこれからずっと私に任せればいいから、余裕で楽して暮らせるって。
許せないと思った。
これ以上寄生が増えると思ったら絶望的な気分になった。
だから最初はね、太一を犯人にしたてあげるつもりだった。
太一に氷割らせて…割ったあとのピックは私が布巾に包んでキッチンに持っていってあとは同じで…。
紗奈に部屋に呼び出させることだって太一相手なら出来るしね。
太一が捕まれば私は寄生虫連中から逃げられる、そう思った」
思わぬ瞳の告白に、小川は顔面蒼白で震え上がった。
「でも紗奈は太一よりもっと有望な相手ギルベルト君に心変わりするし、紗奈はそのギルベルト君と仲が良いロヴィーノ君に敵対心ビシバシで太一どころじゃないし…。
まあギルベルト君にふられたらまた太一に戻るんだろうなと思いつつ、最初はなんだか一生懸命なのに不器用そうなロヴィーノ君も可哀想だと思ってた。
でも違ったのね…。
ジェニーに聞いた。
ロヴィーノ君もすごい財閥の跡取りのおぼっちゃまだって。
お金があって自由もあって良い学校にもいれてもらえて…優秀で優しい友人に守られて…。
彼も私の側じゃなくて恵まれた運の良い側の人間だったと思ったら私の中で何かが切れちゃった。
太一を犯人にしないなら何の意味もないのよね、冷静に考えてみれば。
でもその時本当にカッとしちゃったのね…気づいたらロヴィーノ君を犯人に仕立て上げてた」
瞳の独白が終わると、ギルベルトが
「馬鹿じゃね」
と、吐き捨てるように言った。
「確かに…なんのために殺人を犯すのかって忘れた時点で、馬鹿よね…」
同意する瞳にギルベルトは
「そっちじゃない」
と言うと、苛立ちを隠せない様子で言う。
「勝手に生まれでロヴィについて決めつけてんじゃねえよっ。
俺の2大大事な人間は二人とも財閥の跡取りだけどな、1人はそのせいで命狙われるわで、ロヴィは跡取りとして望まれる能力に恵まれずに蔑まれて、どっちも普通の家に生まれた方が幸せだったと思う。
金持ちの家に生まれたからって僻めるなら、必要と思われる才能持って生れなかった人間の悲哀ってお前にわかんのかよっ!
いつでもロヴィはなんとか期待にこたえようと一生懸命やってきたんだっ。
でも悲しいかな、人の10倍やってもようやく人並だ。
挙句に親の七光だの財閥の跡取りのくせにだの陰で表で叩かれんだぞっ。
才能ありゃあそれは環境がどうであれ一生モンなんだから、成人して家出てから好きに自分の人生つかみゃあいいだけだろうがっ。
ちなみに…色々あって高3で奇跡的に海陽に特待生として転入できたけど、俺様の家は普通ん家だからな。
中学は海陽行きたかったけど、片親で弟いっから絶対に俺様を中学から私立に入れる金なんてねえし、諦めた。
小学4年で母親が死んでからずっと家事やりながら普通に学校の勉強して、自分より学力下の奴が補欠繰り上げで海陽入ったの見ても、公立で歯を食いしばって勉強したぞ。
海陽入った今だって、弟が大学出るまでは主夫と二足のわらじ履いて生きていくし、そのあとからだって十分自分の理想の人生なんて自分次第で掴み取れると思ってる。
家に縛られない、その代わり家に一切頼らない、才能あるならそんな事だって出来るだろうがっ。
それを小川への恨みを全く無関係なロヴィにぶつけるとか、ありえねえぞっ!」
感情的に話すギルベルトを初めて見た気がする。
そこまで言って言葉に詰まるギルベルトの代わりに、アントーニョがこちらは珍しく淡々とした口調でつなげた。
「結局…逃げたいなら建設的な方向で能力を駆使して全力で逃げなあかん。
ましてや無関係な他人巻き込んだとこでろくな事にならへんよ?
まあ…もう遅いわけやけどな」
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