シン…とする室内。
すくみあがる面々。
人の1人くらい殺しそうな空気をびしばし放ちながら、ギルベルトが
「例の物っ!!」
と手をだすのに、
「ああ、これね。」
と、いつのまにいたのか、財閥を引き継いだアーサーの直属の部下で側近の香が黒塗りの箱をかかげた。
一つ一つは何を示すのかロヴィーノにはわからなかったが、ギルベルトが一つ並べるごとに瞳の顔から少しずつ血の気が引いていった。
「これで全部だな…」
全てを並び終えるとギルベルトはそう言って小さく礼を言う。
すると香はにやりと笑い、
「姫様と旅行なら今度は俺も誘ってよ?」
と、ひらひら手を振りながらリビングを出て行った。
そこでギルベルトは皆の方を振り返る。
「お姫さんのコネで某財閥から送らせた“その道のプロ”だ。
いざとなったらそっちの方から圧力をかけて潰すという事で、サディクさんには了承を取ってある」
との説明に、小川と中田がぎょっとしたようにアーサーの方を見る。
「まあ…自分だけ何も出来ないのも寂しいから?」
と、にこりと笑顔で言うアーサーは確かに可愛らしい。
ギルベルトはそこ他への対応を切り上げて、ビニールに入った様々な物を並べたテーブルへと一歩踏み出した。
そしてまず一番左端、ロヴィの指紋がついた証拠品のピックにそっくりなピックを手に取る。
「まずこれがさっきの説明で言った通りロヴィの指紋がついたピックとすり返られたピックだ。
ロヴィの指紋がついたピックを隠し持った犯人が、代わりにこのピックを洗って布巾で拭いて食器棚にしまう振りをして、実際はこれも回収。
もう一度使う機会がなければ誰も本当にこいつがしまわれているかわざわざ引き出しの奥を確認しようなんて思わねえからな。
実際はピックは二本とも犯人が回収していたんだ。
これがすりかえられたほうであるというのは、このピックにを拭いた際に付着した布巾の繊維で証明できる。
逆にロヴィの指紋がついたほうはキッチンの布巾で拭いてないから、繊維が検出できねえ」
「いつのまに…そんな物調べさせてたんですか?」
今のいままで全然知らなかったトーリスはぽか~んと口を開けて呆ける。
それに対してギルベルトは肩をすくめた。
「現場を見た時点でピックの細工とそれを行った人間は明らかでしたから。
瞳も下へ追いやった後、メールでカークランド財閥に協力を要請した上で自分もリビングへ降りたんです。
で、トーリスさんが到着した頃にはさっきの奴が犯人の部屋からピックを回収済み。
到着した鑑識に調べさせたというわけです」
あの時点でそこまで終わっていたのか…と、驚くトーリス。
「ま、というわけで、ピックはロヴィが紗奈の遺体を発見後、救急車を呼んで他に知らせろと言われて現場を離れた後、犯人によってすでに死亡している紗奈の遺体に突き刺されたというわけだ」
言ってギルベルトはいったんピックをテーブルに置きなおす。
そして次にギルベルトがチラつかせたのは、ドアノブカバー。
それは…各部屋のドアノブにかかっていたものと同じものだ。
「というわけで…ピックを刺した時にはすでに死んでいたと言うことは、紗奈はその前に何らかの方法で殺害された事になるわけだが…そこで注目すべきはこのカバーだ。
最初はなんでこんなもんがピックと一緒に後生大事にしまってあったのかわからなかったが…。
通常…つまみタイプの内鍵があるドアノブに、それを覆うカバーはかけない。
内鍵がかけにくくなるしな。
鍵がかかっているかどうかの目視もできなくなる。
で、調べてみたら思わぬものがでてきたんだ」
ギルベルトはそう言ってビニールの上からドアノブカバーを少し広げて見せた。
「ちなみにこれは被害者の部屋からではなく犯人の部屋の隅にあった袋から押収したものな。
よく見ないと…というかよく見てもわからないかもしれねえけど、真ん中のあたりにかすかに血液が付着している。で、これは恐らく被害者の血液と一致するはずだ。
ま、それは警察で調べて下さい」
そう言って和馬はそのビニールをトーリスに渡した。
「でもってだ、血液と一緒になんらかの毒素も検出されると思います」
トーリスは慌てて受け取って鑑識へと渡す。
そうしている間にもギルベルトの説明は続いていた。
「犯人はまず事前に被害者のドアノブの内鍵のつまみに毒を塗った小さな針のような物を仕込んでおいて、その上からドアノブカバーをつけてそれを隠した。
そして被害者が必要な時まで万が一にでもそれに触れる事を避けるため、被害者が自分でドアに触れる機会を持たないように、被害者が部屋にいる時は常に自分も共にいて、自分が毒針に触らないようにドアの開閉をしていたんだ。
犯人は被害者の性格も熟知していて、彼女が何かあれば俺のところに来るのも、あしらわれて拗ねて自室にこもるだろう事も予想していた。
で、そして何も知らない被害者は案の定機嫌を損ねて食事が終わる前に自室に戻った。
ここで戻るような事態が起こらなきゃ、何かしらで誘導はしてたんだろうけどな。
被害者は当然ドアを開けるとドアを閉め、その後当たり前に内鍵をしめようと毒針の仕込んである内鍵のつまみに触れてそのまま倒れて息を引き取る。
しばらくして何も知らずにロヴィが被害者の部屋を訪れて倒れている被害者を発見というわけだ。
犯人はロヴィが2階に上がった時点でそれを追って2階に。
そこでロヴィが被害者を発見するのをジッと物陰で待つ。
そしてロヴィが発見した時点ですぐロヴィに声をかけて現場から追い払う。
一応部屋を暗くして状況把握をしにくくしているものの、ロヴィに詳細を確認されては面倒だからだ。
案の定ロヴィは動揺していて、犯人の指示に従ってロクに状況も確認しないまま一階へ消えた。
その間に犯人は隠し持っていたピックを遺体に突き刺し、内側のドアノブにかかっているカバーを外して毒針を回収。針に刺したときについた被害者の指から出た血がついたドアノブカバーも回収して自分が洗ってみせた上で回収してみせたもう一本のピックと共に三点セットで袋にいれて自分の部屋の隅にとりあえず放り込んでおく。
それが終わって被害者の部屋に戻って犯人はふと気づく。
被害者の指だ。
すぐ死んで生命活動を停止したため大した量ではないが、わずかに針を刺した時の血がついてたんだ。
それをあわてて犯人はおそらく自分のハンカチか何かでぬぐったんだろうな。
気づくと階段の方から音がする。
誰かきたんだろう。ぎりぎりセーフだ。
その焦りと安心が犯人の判断力を多少にぶらせる。
犯人は…ほぼ条件反射で深く考えずにそのハンカチを “いつものように当たり前に” ポケットにでも入れてると思うんだがな?」
そのギルベルトの言葉に瞳はサッと顔色を変えた。
「普通の判断力が残っていれば…万が一を考えたらトイレにでも立ってそれを処分すると思うんだが…ここに全員集められて俺が上にいる間、誰もトイレに中座したりしてないみたいだからな。
ということで…全員ポケットの中身をテーブルに出してもらおうか…」Before <<< >>> Next
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