迷探偵ギルベルトの事件簿後編8

「まあ…生きていたにしても死んでいたにしてもや、目の前の人間が刺したなら…普通怖くないん?
そいつが自分の後ろにまわると思ったら…。
現場を自分が見てなかったとしても…相手はそう思ってない可能性もあるやん?
そいつにしたら唯一の目撃者や…。
一人殺すなら二人殺してもなんて思う可能性も低くはないと思わん?
後ろに回った途端にグサッ!!!」

アントーニョは後ろに回った瞳の耳元でそう言って、いきなり指で瞳の背中をつついた。

「きゃあああっ!!」
思わずすくみ上がる瞳。

その反応はアントーニョにとって満足のいくものだったらしい。
また楽しげな笑い声をあげる。

「なっ…悪趣味な遊びしないでよっ!!」
さすがに涙目で後ろをにらみつける瞳。

それに、堪忍、堪忍と、ハハっと笑いながら自席に戻るアントーニョ。


だがそこでようやく、それまで黙っていたギルベルトの口が開いた。

「悪趣味な遊び…なのか?本当に?
普通は怖いし、一般的に刺した犯人と刺された相手の両方を目にした場合な… “自分の方が” その場を離れて安全を確保しようとするのが自然だ。
ちょうど“救急車を呼んで他に知らせる”という大義名分があるなら余計にな…」

室内がシン…とする。

「何が言いたいの?私が刺したとでも?それ無理よ?
紗奈が上に上がってからロヴィーノ君が紗奈を訪ねて遺体を発見するまで私はリビングにいたんだからっ!」
瞳がそう言って鼻で笑う。

しかしギルベルトはさらに表情を険しくして言葉を続けた。

「ああ、だがロヴィが紗奈を発見した時ピックが刺さっていたと証言しているのは、実は“自分だけ”だと言うことに気づかないか?
もしロヴィが発見した時まだピックが刺さっていなかったとしたら?
俺が到着するまでにピックを刺せたのは一人だけ…と言うことになるな?」

「非現実的だわっ。」
瞳はきっぱり断言した。

「いくら自分の友人をかばいたいからって、でたらめ言わないでっ!
証拠でもあるのっ?!」

「ああ、ロヴィがピックを刺したんじゃないという証拠ならな」
ギルベルトの言葉に瞳は目を見開いた。

そこで和馬はトーリスに言って、証拠品の箱の中からピックの入った袋を受け取る。

「トーニョが言ったけどな、このピックには“ロヴィの指紋だけ”べったりついているわけなんだが…ありえなくないか?」

そこで瞳を含む全員が頭の上にハテナマークを浮かべる。


「…ロヴィーノ君しか触る機会がなかったわけだから…当たり前じゃない?」
瞳が言うと、ギルベルトは我が意を得たりとばかりにうなづいて見せた。


「そうかな?ロヴィ以外で最後にこれに触ったのは誰だ?ロヴィではないよな?
とすると…だ、ロヴィがこれを持ち出したとしても、手袋でもしてない限りは最後に洗って拭いた後、素手で棚にしまった人間の指紋は当然ついてるはずだよな?
だが繰り返すが “このピックにはロヴィの指紋しかついてない”んだ。

とすると…ロヴィはわざわざ他の人間の指紋を拭きとって、自分の指紋だけピックに残すなんて手間暇をかけた事になる。
あまりにありえない行動じゃないか?」

「「あ……!」」
全員が小さく声をあげた。

「ということでな…刺したのはロヴィではないという過程が成り立つ。
で、ロヴィが刺してないという前提で、これを刺せたのは誰かと言うと…まあ一人しかいないわけだ」

「でも…私食器棚に…」
「あ~、それはな」

ギルベルトは瞳の反論をさえぎって更に言う。

「ロヴィと紗奈がリビングに物運んでる間に十分すりかえられるよな。
ロヴィの指紋のついたピックを隠し持って、あらかじめ用意していた同じ形のピックを洗う。
これができたのも“事前の準備をした人間”だけだよな」

次々塞がれていく逃げ道に瞳は一瞬言葉を失う。
しかしギルベルトの追撃は終わらない。

「ピックは綺麗に被害者の左胸に刺さっていた。
ドラマとかだとまあ簡単に切ったり刺したりしてるのを見るが…実際はよほど不意をつかない限り、相手も抵抗を試みるものだし、衣服の乱れ、身をかばおうとして使うであろう手に怪我、避けようと体が動くためできる傷口のぶれなど、色々な形跡が残るもんだ。

それが紗奈の遺体には一切ない。
まるで倒れた状態で無抵抗に刺されたとしか思えない。
しかも…通常意識を失っている状態で刺されたとしても、そこで痛みなどで多少の体の動きは見受けられるはずだが、それもない。

たとえるなら…何かで倒れてそのままの状態でピックだけ突き刺さっているといった感じだ。

このことから…紗奈はなんらかの方法で死んで倒れているところにピックを突き立てられた、つまり死因はピックを刺されたキズとは別にあると考えるのが正しい。
ま、遺体を詳しく調べればわかるわけだが…」

ギルベルトがそこまで言ったときに、瞳が
「ちょっと待って」
とわりこんだ。


「刺されて即死したのかもしれないじゃないっ。
紗奈は持病があるとは聞いてないし、私達はその理屈で言うと紗奈が何らかの方法で死んで倒れるまでの時間は全員リビングにいたから紗奈を殺すなんて不可能だわ。
食べ物も紗奈自身とロヴィーノ君が作った物で飲み物も氷も同じく二人が用意したものだし。
席は適当だったし、全員が同じ物口にしてるし、紗奈の物にだけ何かを混入するなんて不可能よ」

瞳の言葉にギルベルトの苛立ちがどんどん深まっていく。

「紗奈が死ぬ直前に摂取した飲食物を用意したのは紗奈自身とロヴィということを主張したいのか?
俺は全員に等しく容疑者の可能性を提示しているわけなんだが…誰かさんはよほどロヴィを犯人にしたてあげたいらしいな。」

このあたりでロヴィーノは気づく。

自分を気遣って側に…というのもあったのかもしれないが、ギルベルトはいつもより苛立ちすぎている。
おそらくいつものように最初から1人で説明を請け負っていたら、途中で忍耐が尽きていたかもしれない。
だから今回は途中まではアントーニョだったのだろう。

「くだらない邪推はやめてよ。
私は単にあなたは私が犯人という図を今作りたいらしいから、相手を刃物とかで傷つけたわけではない場合に一番可能性のある毒という意味では私には殺人は不可能だったという事を言いたいだけよ。
ロヴィーノ君を貶めるとかそういう意図はないわ」
と、こちらもギルベルトをキツイ目で見据えて言う瞳。

ああ、やべえ…と、そこでロヴィーノは思った。

その次の瞬間

ふざけんなっっ!!!


ガン!!と、ギルベルトがキレてテーブルを蹴った。


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