迷探偵ギルベルトの事件簿後編7

説明を終えて自分をまっすぐ見据える瞳に、ギルベルトは考え込むように腕を組んだまま黙っていたが、そこで響くKYキングの言葉。


「可愛げないなぁ…」


――へ???
室内の全員の視線が声の主に集まった。


「なっ!!」

最初は驚きのあまりぽかんと口を開けて呆けていたが、やがて淡々としていた瞳の顔色がそこで赤くなって、感情的に怒っている表情が浮かぶ。

「いきなり、なにっ?!失礼なっ!」

と、思わず返す瞳にアントーニョは小さく肩をすくめた。


「ああ、堪忍な。つい本音が…」

との言葉に、

――も~、トーニョがKYで気まぐれなのは今に始まった事じゃないけど…さすがにこれはないでしょ。


と、隣で頭を抱えるジェニーの言葉にロヴィーノも同意しかけるが、そこでふと気付く。

普段なら突っ込みをいれるか、代わりに謝罪するか、何かしらの収拾に動く二人が全く我関せずだ。


「まあ…別に親分が付き合うわけやないし?
あーちゃんは世界でいっちゃん可愛えから、それもどうでもええことなんやけどな。
それより質問させたって」

どうでもいいことなら相手を怒らせるような事言わなきゃいいのに…と、一部を除くその場にいる皆が思っている。

「なんですか?」

それでもそこで割り切って答えようとする瞳の理性にロヴィーノは本気で拍手喝采を送りたくなった。


「もう…この際ストレートにきかせてもらうけどな…」

「…はい。」

「ピックが刺さった紗奈を見つけた時、何がどういう経過でそうなったと思ったん?
さらに言うなら…それに対しての感想は?」

トーニョの問いに、それまで淡々と答えていた瞳もさすがに言葉に詰まった。


そしてチラリとロヴィーノに目を向ける。

それに気づいたアントーニョは

「言っても言わへんでも事実はすでに確定していて変わらんと思うで?
親分は単に現場がどういう風に見えたかが知りたいだけやねん」
と、先をうながした。

「わかったわ…もう思い切り私の私見だけど…」
瞳は覚悟を決めたらしい。そう言って少し落ち着こうと息を整える。

「ロヴィーノ君が…やっぱり紗奈と揉めて刺しちゃったのかなと思った。
ピック自体は私自身が確かに食器棚にしまったのは記憶してたし、その後食器棚に近づけたのはロヴィーノ君だけだから…」

瞳の言葉にロヴィーノは青くなった。

まあ…状況的にはそう取られても仕方ないわけだが…はっきり名指しで言われるとやはり堪える。

そんなロヴィーノの手を今度はアーサーが握ってくれる。
普段ならアーサーがそんな事をしたら大騒ぎのアントーニョも今は黙認のようだ。


「それは分析やんな。で?感情的には?」
「感情的?」
瞳は意味を取りかねたように少し眉をひそめた。

そこでアントーニョが説明する。

「普通…明らかに第三者に刺された人間なんて見るとな、怖いという感情は生まれると思うんやけど?」
「あ…それは…もちろん…」
「怖いと思いつつ、でもまず救急車をと物理的に必要な事項を優先する理性が勝ったという事なん?」

アントーニョの質問に瞳は少し迷って、しかし

「まあ…そういうことになるわね…」
とうなづいた。


「ふ~ん…」
その瞳の答えにまたアントーニョはにこにこと笑みをうかべたままだ。

「…なに?」
ムッとして聞く瞳。


「いや…普通…少なくとも親分ならまず、相手が刺されて死んでいると思ったらまず救急車より警察だと思うんやけど?」
そのアントーニョの言葉に瞳は初めてビクっと動揺した様子を見せた。


しかしすぐ
「ごめん、失言だった。今までずっと死体って話をしてたから…混同した。
実際は…発見当時は死体と思ってたわけじゃなくて…生きてると思ってたから」
と瞳は少し顔を赤くして答える。

「なるほど。“”“”も木から落ちると言ったところやね…」

猿という言葉をわざわざ強調して言うあたりが嫌らしい…とロヴィーノは内心またため息をつくが、何故かアーサーもギルベルトも本当に二人のやりとりなど聞こえてはいないかのように涼しい顔だ。

しかし…いきなり立ち上がったアントーニョの放つ空気にぎょっとする。
顔は笑顔。
でも珍しくわかりにくく苛立っている。


そして…みんな動きのあるアントーニョの方に注目していて気付かないが、みんなのいるテーブルから少し前方、さきほどから警察をバックに立っているギルベルトも険しい顔をしていて、その目は獲物を狙う蛇のように鋭い光を放っている。



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