こうして先々代の委員長から覚えている限りのノウハウを聞き出し、また、ギルベルトとフランシスで手分けをして委員長以外の元委員にも色々聞いて回って、なんとかルッツが滞り無く委員会を運営していけるだけの情報を集めた…という事があったのは、ギルベルト的には記憶に新しい。
ルッツと同様可愛い弟、もしくは友人だ。
相手がアーサーをそういう目で見ているとしたら、自分では役不足だと思っていたところに、アントーニョの存在は渡りに船だ。
アントーニョはアーサーが自分を必要としている間は絶対に見捨てないだろう。
あとはどれだけアーサーが保護が必要な相手かをアントーニョに叩きこむだけだ。
手がかかる相手なら相手なほど、アントーニョはほだされる。
とりあえずギルベルトは道々ルートの時の話をして、そういう人物なんだと説明した後、念のため…と、アーサーの事についても念押ししておく。
「ちったあ知ってると思うけど、アルトは昔ほど虚弱ってわけじゃねえけど喘息持ちだから、6月とか10月とか季節の変わり目弱いからな?
風邪悪化すると発作につながることあるし、気をつけてやれよ?」
「おん。もちろんやで。朝もちゃんと早起きして迎えに行っとるし、帰りかて追試までは部活出れへんからちゃんと家まで送ってくし。」
――やっぱ親分が守ったらなあかんやん?
という表情は非常に幸せそうだ。
こいつら実は好み一緒?さすが従兄弟だな…とは思うものの、まあアントーニョなら無害というか、たぶんアーサーを独り占めしたかったら、素直にそう言ってわかりやすく抱え込むだけだ。
裏で陥れるよりは可愛いものだし、対処も出来るだろう。
そんなことを考えながら
「アーティー、怖い思いさせて堪忍な~。大丈夫やったか~」
と、アーサーが待っている図書室の前に来ると、ガラっとドアをあけて駆け込んでいくアントーニョを見送るギルベルト。
「俺は平気だけど…カ…あ…と、トーニョは?」
と、どうやらアントーニョから相性で呼ぶように言われたのだろう。
おそらくカリエド先輩と言おうとして、慌てて言い直すものの、どこか恥ずかしそうなアーサーに、アントーニョが向ける可愛くて可愛くて仕方ないといった風な視線は、まあ演技ではありえない。
というか、そんな演技が出来るほど器用な男じゃない。
「親分はこう見えても強いんやで。ガチでやりあったって負けへんよ。
まあ…色々難しいことはわからへんけど、そのあたりはギルちゃんがなんとかするさかいな、アーティは心配せんでもええんやで。
俺ら皆で守ったるからな」
そして…馬鹿なりに自分に出来る事と出来ない事はちゃんと理解していて、それを振る友人関係も築いた上で誰に振ればいいのかもわかってるあたりは上等だと思う。
「ギルちゃん、どうなったの?」
と、そこに息を切らして走ってくるフランシス。
「ああ、とりあえずエンリケはたぶんアルトの教室行ったあと、いないのを確認したら俺らの教室じゃね?」
「あ~、じゃあ直接こっち来て正解だったね。坊っちゃんは?」
カバンを抱えたままホッと息をつくフランシスにギルベルトは顎をシャクってみせた。
「あ~…なんていうか…あのペドで大丈夫なの?」
と、アーサーをぎゅうぎゅう抱きしめるアントーニョを視界の端に置きつつギルベルトに心配そうな視線を向けるフランシスに、ギルベルトは
「エンリケより無害じゃね?
あいつは腹芸出来ねえから度をこしてたらすぐわかるし、そうしたらどつけばすむだろ」
と、肩をすくめた。
「まあ…そうなんだけどね。とりあえずアーサーはトーニョに預けるとして…」
「俺らはそのフォローだな」
「だねぇ」
悪友二人はそれぞれにとって大事な1つ年下の少年をとりあえず自分達の領域に保護出来た事に安堵しながらも、これからを思って警戒もする。
こうして一人呑気に被保護者を手に入れて楽しげなアントーニョを遠目に、二人はこれからのアーサーの護衛について計画を練り始めたのだった。
「ギルちゃんもフランも、いつまでそこにおるん」
そうして廊下で話し込んでいると、来い来いとアントーニョが手招きをする。
大事なモノは一人で抱え込みたいタイプの男としては珍しいなと思いつつ側に行くと、アントーニョはニヤリと笑ってギルベルトにグイっと何かを突きつけた。
「ほれ、軍師に挑戦状やで~。しっかり対策考えたってや」
との言葉とともに至近距離に突きつけられたものはアーサーのスマホ。
――あとで迎えに行くな~。
と本文が一言。
差出人は言わずもがな。
「あとでって…いつだよ」
ガックリ肩を落とすギルベルトに
「それ考えるのがギルちゃんの仕事やろ~」
とお気楽に言ってくれる悪友。
「うん…まあ人脈関係ならお兄さんがなんとかするからさ、ギルちゃんファイトっ!」
と、こちらも他人ごとを決め込んで苦笑する悪友そのに。
しかし
「ギル…そんなに無理は…」
と、可愛い後輩におずおずと言われれば、
「してねえよっ!大丈夫、任せろっ!なんとかするから!俺様超天才だからなっ!」
と、無理でもなんでも自信満々笑って見せるしか無い。
――やせ我慢は男の美学である――
0 件のコメント :
コメントを投稿