あれは高等部から外部を受けて別の学校に行ったギルベルトの1つ違いの弟が中学2年の時だ。
弟のルッツはエンリケのあとの委員会の委員長を務める事になった。
通常なら3年生がなるところだが、異例の2年生委員長だ。
さすが俺様のルッツ!自慢の弟!と、当時3年生だったギルベルトも鼻高々だった。
が、ギルベルトの弟が着任した時には、委員長用の資料が全くなかった。
まず年度の始め、5月に各委員長が集まって年間の活動計画を発表するのだが、その資料すらない。
慌てて高等部まで資料の保管場所を聞きに行ったら、いきなり言われたのだ。
「ああ、今度の委員長はなんや2年生でトップに立つめちゃ優秀な子ぉやって聞いたさかいな、俺が変に進めとったモンなんて気にせんで自由にやってもらおう思うて敢えて残さんかったんや。」
ルートに付き合って一緒にそれを聞きに行ったギルベルトはその言葉に目眩がした。
「いや、あんたの代のもんはとにかくとして、過去の委員長が残したもんだってあっただろ?」
と、思わず口を挟めば
「覚えてへんわ~。でもどうしても自分じゃやっていけへんて言うなら指導したるで?」
と、シラっと言われて、自分の事なら比較的冷静なギルベルトも思わず頭に血がのぼってつかみかかりかけるのを制したのはルートだった。
「なるほど。あなたが長をやめた後の委員や部が色々滞るのは、前の長が優秀だったから…と噂が流れたカラクリはこういうことだったのだな」
と睨みつけるルートの視線を受けて、若干ムッとした表情をするエンリケ。
「俺が優秀かはしれへんけど…後輩が困っとるから任期切れたあとも善意で助けに行ったったことは何度もあるで?
それで優秀とか言われたのかもしれへんけど?」
「教える条件に噂を流させたってことか」
ルートの、もうエンリケを頼る気がないという意思を汲み取ってギルベルトが鼻で笑うと、エンリケは一瞬すごい目でギルベルトを睨みつけたが、すぐニヤリと笑みを浮かべた。
「前年度までの情報が全くない状態では委員会は立ちゆかへんと思うで?
まあ出来るもんならやってみたらええんちゃう?」
確かにそうだ…と一瞬弱気な考えが脳裏をよぎったギルベルトだが、ルートの意思は強かったようだ。
「ああ、そうさせてもらおう」
と、返答を聞かずにクルリと反転した。
「ルッツ、まてよっ!」
慌てて弟の後を追うギルベルト。
「確かにムカつくけどよ、全く情報なしで委員会回すのは無理だぞ?」
もう少しかき回して情報を少しでも引き出したほうが…と思っていたギルベルトに、ルートは厳しい表情で言った。
「ああいう輩に頭を下げるくらいなら、今年度の各委員長に頭を下げて回ったほうが良い」
「あ~、頭を下げてなんとかなるならな。でもそれで保たれるのは委員長同士の関係だけで、委員会が回せるわけじゃねえだろ?」
と中等部の校舎に入ったあたりでギルベルトが困ったように眉を寄せた時、ちょうど通りかかったのはフランシスである。
「なあに、ギルちゃんもルッツも難しい顔して」
と言われて事情を話せば、
「あ~あの男ならやりそうだよねぇ」
と眉を潜めた。
「うちの坊っちゃんもさ、アレに気に入られちゃって付きまとわれてるからさ。
本人気づいてないけど、アレが裏から手回して坊っちゃんの周りに親しい人間出来そうになると遠ざけてるし。
なまじっか不器用で朴訥そうに見えるけど、なかなかえげつない人物だよ?」
と、人間大好きなフランシスにしてはひどく嫌そうに言うのもわかる気がする。
「ああ、今回で思い知ったぜ。
あの単純馬鹿のトーニョの従兄弟には思えねえよな」
「まあねぇ。顔は似てるんだけどさ、性格正反対だから。
トーニョは馬鹿で単純で気に入らないと正面から喧嘩ふっかけて怒られるわけなんだけどさ、アレは人の良さそうな顔して裏で陥れるタイプだから。
後輩とかもさ、可愛がってるようにみえても縁が切れる時は自分が与えたものは全部取り上げて放り出すって裏では有名だよ?
だからアレが去った後の委員や部ってもうボロボロになるの」
「それ、ルッツが直面する前に教えてくれよ」
ガリガリと頭をかくギルベルトに、フランシスは、
「だってお兄さんルッツが委員長やるなんて知らなかったんだもん」
と、苦笑して、しかし次に一言
「あ、でもとりあえず委員会に関してはなんとかしてあげられるかもよ?」
と付け加える。
「マジかっ?!」
と身を乗り出すギルベルトごしに、フランシスはルッツをみつめた。
「ルッツ、お兄さんさ、これから高等部2年の先輩とデートなんだけどさ、少しだけ一緒に来る?」
「すまない、何故そこに俺が行かないといけないのか、意味がよくわからないのだが…」
と、ウィンクをするフランシスに生真面目な…少し困った表情で応えるルッツ。
それに小さく笑って、フランシスは付け足した。
「そのデートの相手ってのが、エンリケの前の委員会の委員長なの」
「おお~、フランのタラシもたまには役に立つんだなっ!」
と失礼な事を言うギルベルトにフランシスが、そんなに言うなら会わせてあげないよ、と、言う前に、ルートが
「兄さん、好意で力になってくれようとしている相手に失礼な事を言うべきじゃない」
と、また生真面目にたしなめて、
「相変わらず兄弟逆転してるよね~」
と、フランシスが吹き出した。
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