恋人様は駆け込み寺_2章_3

ギルベルトの朝は早い。

別に部活をやっているわけでも、何か早く来なければならない理由もなく、ただ10分前行動をという小学校時代に最初に言われた規則を遂行すべく、万が一交通機関が遅れた場合でも対処出来るように、その分の時間も考慮して早めに自宅を出て、だいたい学校に着くのが刻限の40分ほど前になるだけだ。

そう、服装こそ適当に着崩していて、言動もアレなため、アバウトで不真面目に見えるのだが、実はいくら悪友達が誘っても授業をサボるような事もせず、成績も学年主席の優等生だったりする。

だいたい多くの一般の生徒達が登校してくるのは始業15分前ほどから。

それまではほぼ一人楽しすぎる時間帯なので、授業を受ける準備が整ったら、それは持ち込みを禁止されてはいないスマホで、『俺様ブログ』を更新するのが日常だ。

その日も朝から『今日もカッコイイ俺様』についてブログで語っていたら、校庭の方から争うような声が聞こえて、ギルベルトは教室の窓から外へと目を向けた。

――あれは…トーニョとアヴェイロ先輩じゃねえか。それに…アルト?

その組み合わせの不穏さに、ギルベルトはスマホを制服のポケットに突っ込むとガタっと席を立ち上がった。

廊下は走らない…という規則も、あるいはそれ以上の惨事になる可能性もある事象を前にしてやむなく破る。
もっとも…それを注意する人間もまだほぼ登校してきてはいないのだが…。

2年の教室のある2階から階段を駆け下り、校庭に出たギルベルトは、どうしようかと思いつつ、

gutten Morgen!アルトっ!」
と、まずアーサーに声をかけた。

「あ、ギル、モーニンっ」
と、心底ホッとしたように振り向くアーサー。

「ギルちゃん、ええとこに。親分ちょっとエンリケと話しとるから、アーティー部屋に連れてってやってくれへん?寒いし風邪引いたらアレやしな」
と、こちらもホッとした様子のアントーニョ。

確かに…。
小学生の頃から割合と真面目に委員をやっていたギルベルトはアーサーともよく同じ委員になったりしていて、フランの従兄弟でもあることだし、割合と親しい。
なので実は喘息持ちなのも、6月や10月といった季節に弱いのも知っている。
小学校時代とかよりはましになったものの、今の季節に風邪を引くと悪化しかねない。

Ja。アルト、行こう」
と、手を差し伸べると、アーサーは困ったようにアントーニョを振り返った。

「ちょ、勝手に決めんといて。都合悪いモンは隠すんか?」
と、あまり抑揚のない声で、視線にだけ怒りを乗せて言うエンリケから隠すようにアントーニョは少し身をずらすと、

「大丈夫やで、ギルちゃんと行き、アーティ」
と、アーサーに笑いかけたあと、笑みを消してギルベルトに若干トーンを落とした声で
「ギルちゃん、頼むわ」
と、促した。


「行くぞ、アルト」
と、それでギルベルトは決断して、迷うアーサーの腕を掴んでやや強引に校舎内へと戻る。

「…ギル……」
「話はあとで聞く」
と、アーサーの言葉を遮って上履きに履きかえさせると、ギルベルトはとりあえずまだ誰も来ていない自分達の教室へとアーサーを誘導した。

自分一人の時はつけていなかった暖房を素早くつけて、アーサーを自分の隣のフランシスの席に座らせると、
「で?何が起こってる?」
と、自分は自分の椅子を隣に向けて座ると、そう切り出した。

アーサーは上級生の教室で居心地悪そうにしていたが、
「そこはフランの席だから気にすんな」
と言うと、少しホッとしたようである。
実は…とおずおずと口を開いた。


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