「おはようさん」
朝、最寄り駅の改札をくぐるとイケメンが立っていた…。
昨夜、学校で交換したメアドにいきなりメールが来た。
今まで仕事で海外在住の親とフランと日本での親代わりのフランの母親とエンリケと…せいぜいギルベルトくらいしか届く事がなかったメール。
そこに燦然と輝く想い人からのメールは、とにかく確認してすぐ保護をかけた。
こちらの都合で付き合うフリをしてもらっているだけなのに優しい言葉に感動しつつ、聞かれた事に即答えると、いつもより10分早く駅に行くように指示されて了承した。
アントーニョとのメールのやりとりなんて嘘みたいだ。
浮かれて携帯を抱きしめて寝る。
いつもより10分早く…ただそれだけなのに、それがアントーニョからの指示だと思うと嬉しくて、目覚ましが鳴る30分も前に目が覚めてしまった。
それから二度寝したら色々終わるので、いつもどおり支度をして、いつもより20分前に家の出た。
そして改札をくぐった瞬間かけられた声にびっくりする。
なんでここに?と思わず聞くと、心配やったから迎えにきたんやで~と明るく言われて、当たり前にカバンを奪われた。
「自分で持てるからっ…カリエド先輩っ」
片手で二人分のカバンを、片手でアーサーの手を握りながら当たり前に歩き出すアントーニョにアーサーが慌てて言うと、アントーニョはクルリと顔だけ振り向いて
「俺と付き合うっていうことは、こういう事やで。
あとカリエド先輩言う呼び名も頂けんわ~。トーニョって呼んだってな」
と、太陽のように明るい笑顔を浮かべて言う。
もうそれを言われると、抵抗することも出来ずに、アーサーが小さな小さな声で
「……ありがとう……と…トーニョ……」
と言うと、また
「んっ!」
と、頷いて笑った。
こうしてまるで夢の中にいるような気分で階段を上がっていると鳴る携帯。
エンリケの番号だったのでスルーしてしまおうかと一瞬思ったが、いくら言ってもしょっちゅうアーサーの家まで迎えに来るので今日もそれかもしれない。
そうだとすれば、放置すれば遅刻するだろうと、しかたなしに出ると案の定
『アーサー、今どこなん?』
と、不機嫌な声が聞こえてくる。
「あ~、もう駅。今日は早く出たから」
『なんで今日に限って?ちょお待っとって』
と、焦る声に、アーサーもなんとなく焦る。
「無理。もう電車来たし人と一緒だから。じゃ、切るな」
と、それ以上言わせずに電源ごと切ってしまう。
「エンリケから?」
とそのやりとりを黙って見ていたアントーニョに頷くと、アントーニョはいったん握った手を離してアーサーの頭をなで、
「付き合っとる事とか、その他諸々は親分が言うたるから、アーティーは心配せんでもええからな」
と、アーサーに笑いかけるとまた手をつなぐ。
そこまでやってもらえるなんて思っても見なかったが、
「大丈夫やで。親分が守ったるからな」
と言われると、やはり嬉しい。
電車に乗ってもともすれば潰されかけそうなのを両手で庇ってくれるし、まるでフリなんかじゃなくて、本当に付き合ってるように錯覚してしまいそうだ。
「今日は図書室で一緒に勉強して、そのあと家まで送ってくわ。
そしたら家の場所わかるから、明日から家まで迎えに行けるしな~」
ガタンゴトン揺れる電車。
いつもなら不快なこの朝の満員電車も、背をドアに預けてずっと片思いをしていた相手の両腕の間に守るように挟まれていると、素敵な夢空間だ。
そこでさらにそんな嘘みたいな申し出をされるが
「それはさすがに悪いから…」
と、アーサーが首を横にふると、アントーニョは
「さっきの電話…エンリケが家まで来てもうたってやつやろ?
今日は早く出たからかちあわんかったけど、明日はさらに早く来てまうかも知れへんから。
アーティ一人やったら危ないやん。親分おったら守ったれるから」
と、綺麗なエメラルド色の目を少し細めて優しく微笑む。
ああ…アントーニョとこんなに優しい時間が持てるなんて、昨日のあの瞬間までは考えても見なかった。
不謹慎だがエンリケ様々だ。
……などと思ったのが悪かったのだろうか…。
学校に着くと何故か校庭でエンリケが待っていた。
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