さてどう切り出そうか…。
悩んだ挙句、結局
「あの…俺勉強なら高認(高等学校卒業程度認定試験:高校卒業と同等の資格)取ってるから…。フランの奴も追試組脱出させたし、教えられるんだけど…」
と、条件から切り出す。
いきなり言われたアントーニョの方は当然ポカンだ。
自分が気にすることやないで?」
自分にそんな義理ないやん…と当然そんな言葉が返ってくるが、アーサーはさらにより言いにくい事のほうを口にする。
「いや…あの…その代わり…付き合って欲しいんだけど…」
ああ、言ってしまった…と、さらに赤くなるアーサーに、アントーニョはさらにポカンだ。
「いや、自分いきなり何言うとるん?
親分さすがにそんなんで誰彼構わず付き合うくらい相手に困ってへんし…」
と、思い切り引かれるのも想定の範囲内だ。
傷ついたりなんかしない…と思いつつまた溢れ出る涙。
「ちょ、堪忍してやぁ~」
と、心底困った様子のアントーニョに、アーサーはシャクリを上げながら
「ち…違って……」
と、首を横にふる。
「あ、堪忍。付き合うの意味が違ったん?
何かして欲しいとか一緒にどこか行って欲しいとか、そういうやつやった?」
と、あからさまにホッとした顔で言うアントーニョに内心落ち込みながらも、元々良い反応などあるわけがないというのは当たり前にわかっていたので、アーサーはグイッと袖口で涙をぬぐった。
「今年度の間…フリをして欲しいんだ。
学校にいる間だけ、フリだけでいい。
もちろんその間にカリエド先輩に本当に好きな相手が出来たら事情を話して期間が終わるまで待ってくれるように俺が頼むし…もしそれでダメなら…仕方ないから中断してもいい」
このままでは部活が出来ない。
アントーニョ的にも切羽詰まった状況のはずだ。
これは千載一遇のチャンスなのだ。
本当に付き合うのは嫌でも、本当に付き合いたいと思われているのは嫌でも、お互い便宜上という形なら了承してくれないだろうか…。
「…なんか…事情あるん?」
と、元来人がいいのだろう、さきほどまでの若干引いた様子が消え、少し心配そうな顔になる。
善意を利用するのは申し訳ないが、アントーニョにとっても悪い話ではないはずだ。
元々人気者のアントーニョのことだ。その気になれば恋人なんていくらでも作れるだろうが、追試クリアは本当に急務なので難しい。
「実は…告白されて何度断っても諦めてもらえなくて……
嫌なやつでも嫌いなわけでもなくて、俺、ガキの頃は虚弱だったからすげえ世話になってんだけど、どうしてもそういう対象には見れない。
そういう風に考えようとしても生理的にダメなんだ…本気で気持ち悪くなる」
嘘はついていない。事実ではある。
イライラとしてひどく暴力的な気分になって暴れ回りたくなるし、それをこらえようと思うと気持ちが悪くなるのだ。
「ん~~誰かはわかる気するんやけど…どうしてもダメなのは男だからとかなん?」
実は幼なじみはアントーニョの従兄弟だ。
アーサーとあれだけベタベタと一緒にいるわけだから、そりゃあわかるだろう。
なまじ知ってる仲――というか、従兄弟だからアーサーに対する気持ちくらいは話しているのかもしれない――だから、悩んでいるらしい。
「いや…あいつだからダメみたいだ。
ようは…本当の兄弟とか親とかから性的な目で見られたら嫌だろう?」
と言えば納得したようである。
「そうやんなぁ…。でもなんで俺なん?あいつと似てるやろ?」
と、その質問も想定の範囲内で…
「…俺…ガキの頃は学校と病院の往復であんま外でとか遊べなくて友達いなかったから…そんなこと頼める相手いねえし」
と俯いてみせると、アントーニョの目が少し優しくなった。
同情でもいい…というか、普通になんて相手にされないのはわかっているのだから贅沢は言わない。
期間限定でも良い、フリでも良いから近くで過ごしてみたい。
同情するならしろっ。
むしろ思い切り買ってやるっ…とばかりに、アーサーは普段はコンプレックスの童顔をことさら強調するように目をパチパチと瞬かせて大きな目からポロポロと涙をこぼした。
「あいつと…フランくらいしかいなかったし、フランとなんてあいつ以上に気持ち悪いし…」
「あ~あいつ変態やしなぁ…」
と、幼稚舎からの悪友であるフランシスに対してはアントーニョも容赦ない。
「頼れる相手なんていないから……」
と、俯いてシャクリをあげてみれば、元来世話好きな親分肌のアントーニョは絆されたのだろう。
「よっしゃ。しゃあない。親分に任せとき。1年間きっちり仮の恋人演じたるわ」
と、大きなため息を吐き出しながらも請け負った。
やったぁ!さすが騙されやすさはピカイチだなっ!
と、後輩が俯いたまま震えているのが歓喜のためなどとはかけらも思わないアントーニョは、こうして仮の恋人生活に突入するのである。
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