輿など余裕で通れる頑丈で大きな扉。
それを超えると、大広間。
赤い絨毯がさらに奥の扉に向かって伸びていた。
扉の左右にずらりと並ぶ妖怪達。
しかし牛魔王らしき姿はない。
どうやら奥の扉の向こうにいるのだろう。
妖怪達の中でもドア近くに控え、正装をしている一団。
その中の1人が近づいてくる。
恭しく輿が下ろされ、その側近らしき妖怪が簾をあげた。
「花嫁はこちらへ…」
と、そこはさすがに側近だけあって、一瞬ピクリと動きを止めたが、すぐ何事もなかったようにアーサーに向かって差し出す手。
(な、もうええんちゃう?あのドアの向こうに踏み込も?)
と、それを見てジリジリしながらアントーニョがギルベルトの脇をつつくが、
(いや、確実にあのドアの向こうに牛魔王がいるとわかるまではダメだ。いなかったら全てが終わる)
と、小さく首を振ってそれを制した。
差し出される手につかまって輿を降りるアーサーに続いて降りようとするフランシスだが、そこでぴしゃりと簾が下ろされる。
(あれ…お前は要らんて意志表示やんな?)
と、アントーニョですらわかるその露骨さにめげる事もなく、いつもはよく空気を読むフランシスも今回ばかりは空気を無視することにしたのだろう。
自分で簾をめくり上げて外に出てくる。
しかし側近に手を取られてドアの方へと向かうアーサーを追いかけるため立ち上がろうとした瞬間、ドン!!と長い衣の裾を衛兵に踏まれて、バランスを崩して床に転がった。
どうやら花嫁1人を奥へと言う事らしい。
まずいな…とギルベルトも内心焦る。
ここでもう戦闘を仕掛けるべきか…と悩みながら、
「おそれながら…」
と、ダメもとで声をかけてみた。
ぴたりと止まる足。
側近とアーサーが振り向いた。
「失礼ながら、確かに牛魔王様の元にお連れしたと言う証がないと、戻るに戻れませぬ。
確認のため牛魔王様の御前まで同行をお許し頂けないでしょうか?」
膝をついて言うギルベルトに、側近は部下らしき妖怪にアイコンタクトを送った。
すると部下がしずしずと漆の盆を掲げてギルベルトの前まで来ると、自らも膝を折った。
「去年までと同様、確かに嫁を受け取ったという牛魔王様直筆の書状だ」
これで証になるだろう…と言われれば、それ以上言葉がない。
仕方ない…と、攻撃態勢に入ろうと小さく形を変えた腰のモノに手を伸ばしかけるギルベルトを、側近の横で同じく振り返っているアーサーが目で制した。
「同行した者は実の兄でございますので、一言お別れを…」
と、白い着物の袖口で口元を押さえつつ、小さな小さな声でそう願い出れば、側近は一歩下がって頷いた。
そこでしずしずとギルベルトとアントーニョに歩み寄るアーサー。
(…もし牛魔王がこの奥に確かにいる事が確認出来たら、少し痛い思いをさせて悪いがトーニョの頭の緊箍児を一瞬締め付けるから。それを合図に突入してくれ)
小声でそうささやくと、それらしき別れの言葉を告げて、くるりと反転、側近の元に戻る。
「では牛魔王様がお待ちかねだ。」
と、側近に促され、アーサーは最奥のドアをくぐった。
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