GoWest-APH西遊記-弐の巻_7

入口のあたりはまだ岩がゴツゴツしていていたのが、奥に行くに従ってなだらかな床になり、さらに大きな扉を超えた最奥の一帯は、高級そうな絨毯が敷いてある。

その絨毯の上に一歩足を踏み出した時、手前のドアがいきなり開いた。


「Hey!また新しい嫁なのかい?」
と、軽い口調とは裏腹にすさまじいパワーを感じさせるその青年は、この岩山の他の妖怪とは違って、頭に角がある他は、まるで人間のような容姿をしている。

賢そうな広い額の下には綺麗に晴れ渡った青空のような色合いの瞳。
若く見えるのか実際に若いのか、人で言えば十分大柄な体躯に似合わず、顔立ちには幼さが残る。

にこりと邪気のない笑みを浮かべて近寄ってくるその青年を、護衛が止める様子のない事を不思議に思っていると、まっすぐ輿に向かいかけた青年はギルベルトの横でぴたりと歩みを止めた。

「俺はアルフレッド。
牛魔王が連れてきた中で唯一自害もせず気も狂わず、さらに子どもまで成した村の神社の娘と牛魔王の間の子で、さらに言うなら牛魔王と人間の間に生まれた子どもの中でただ一人価値のある力を持った子として生かされた息子さ。
でもまあ…今は警戒しないでくれて良いと思うよ?」

にやりと意味ありげにそう言うと、今度は輿に視線を向け、一瞬固まる。

しかしそれも一瞬で、
「…二兎追う者は一兎を追えずって言うからね。今はまあいっか…」
と、誰ともなしに呟いて、また何かを含んだような笑みを浮かべると、
「ま、頑張りなよ。」
と、ポンポンとギルベルトの手を気安い様子で叩くと、元来た部屋へと戻って行った。

パタン…とドアが閉まった瞬間、は~っとその無言のパワーの圧力に力を抜いたのはギルベルトだけではない。
護衛達が一斉に安堵のため息をついた。

「俺…あの方苦手だよ。どこか怖え」
と、同僚の肩に手をかけ脱力する護衛の1人に、肩に手を置かれた妖怪も
「気が合うな。俺もだ」
と苦笑する。

「ギルちゃん?どないしたん?
まさかギルちゃんまでビビったわけやないやんな?
俺らがその気になればあんな若造一撃やで?」
と、アントーニョが不満げに唇を尖らせて言うと、茫然と立ちすくんでいたギルベルトはハッとしたように
「ああ…そうだな」
とぎこちない笑みを浮かべた。

そこで再度奥へと進む一行。

(道に困ったら、これ使いなよ?)
さきほど手を叩かれた際、渡された物をしっかりつかんだこぶしをかすかに広げ、ギルベルトは中の物を確認するとまた掌を閉じる。

それは親指の先ほどの小さな水晶だった。

牛魔王の息子が何故?
特に敵意も感じない代わりに好意的な空気も感じなかった。
罠なのか…と思わないでもないが、明らかに自分達の正体に気づいていたように思われるし、それならわざわざ罠などかけなくても正体をばらせば良い事だ。

(…何が目的なのかわかんねえし…不気味…だよな……)
小さく息を吐き出す。

が、良くも悪くも感情的で、しかも青年アルフレッドにあまり良い印象を持たなかったらしいアントーニョにそれを打ち明けるのはあまりに危険だ。
自分の胸にのみとどめておくしかないだろう。
ギルベルトは複雑な内心を押し込めて、目の前の状況に集中することにした。





0 件のコメント :

コメントを投稿