突然はらりとあがる簾。
そこから何か見苦しい物が転がり落ちた気もするが、そんなものは見ていないしどうでもいい。
それより問題なのは、汗ばんで少し紅潮した真っ白な肌に張り付いた真っ白な着物…。
全裸よりも強烈に布一枚をはぎ取れば現れるその白い裸体を連想させる。
暑さのためか潤んで少し虚ろになった大きな目。
小さく開いた唇から少し伺える薄桃色の舌先が妙になまめかしい。
ずくりと下半身が重くなったのは自分だけではない。
輿を囲む妖怪達の絡みつくような目線とごくりと唾を飲み込む音。
ボスの女…そう思っていなければ、この瞬間にも一斉に飛びかかりそうな雰囲気である。
それでなくても徳の高い高僧は、妖怪が旨そう…と感じるオーラを発している。
それプラスこの無防備で清らかな風貌から醸し出す何とも言えない色気。
欲望の強い妖怪達にとってはなかなか刺激が強い。
決してその純潔を汚させまいと心に誓って同行しているアントーニョでさえ、血迷いそうになって、慌てて頭を激しく横に振った。
あの理性と規律で出来ているギルベルトですら、一瞬その姿から目が離せず凝視して、慌てて転がり出た何かを輿に戻したくらいだ。
本当にやばい…真面目にやばいとアントーニョは思う。
これ…本当に天竺までの長い道のりで貞操を守りきれるんだろうか…。
他の妖怪からはもちろんのこと……自分からも。
そんな葛藤をしながらも歩き続ければ火焔山に着く。
黙々と煙のたつ入口を思い切って抜ければ、中は思いのほか涼しいのに驚いた。
おそらく輿の中のアーサーもそう感じたのだろう。
ほぉっと小さく息を吐く音が聞こえたが、それにさえも周りの妖怪達がぴくりと身を震わせる。
頼むから…頼むからもう何も気配を見せずに息をひそめていてくれ…と、アントーニョもギルベルトも思って心の中で頭を抱えた。
その後、出迎えた少し偉い身分であろう妖怪が輿を下すように命じたが、そこでここまで連れてくる間の責任者だったらしき妖怪が何かぼそぼそと耳打ちし、結局輿に乗ったまま、牛魔王の所まで案内される事になったようだ。
(…今までの娘と違って、あまりに美味そうだから、血迷う輩を出さないため…らしい)
と、耳の良いギルべルトのささやきに、アントーニョは頷いた。
確かに賢明な判断である。
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