と、輿を担いでいる妖怪の呟きにピクリと手を小さくした如意棒に伸ばしかけるアントーニョをギルベルトが慌てて止めた。
今乱闘を起こしてはこんな恰好をした意味がない。
戦うのは敵のボスの前に着いてからだ。
(今はこらえろ…。ボスに会ったらいくらでも暴れていいから)
と小声で念押しをすると、アントーニョはギリリと歯ぎしりをしたが、最終的に手を戻す。
それにホッとため息をつくと、ギルベルトはまた輿に続いて黙々と歩き続けた。
暑い…非常に暑い。
村のあたりでも十分暑かったが、その暑さの発信地だ。
岩山のふもとまで着いた頃には汗びっしょりだ。
「…あっつ~~。少し脱いで良い?」
と、輿の中に居るのを良い事にフランシスは少し襟元をくつろげ、手でパタパタと仰ぎ始めるが、アーサーは脱ぐわけにはいかない。
それを恨めしそうに眺めながら、体力が完全に削られる前に、牛魔王の前に着く事をひたすら祈った。
そう…自分で殴り倒す気は満々だ。
なにしろ天界では道術、武術を学んでいるという自負がある。
牛魔王がどれだけのものかは知らないが、とりあえずこの目の前にいる髭、なんだか天界の中でも偉い元帥だったらしいこの男ですら、簡単に張り倒せたのだ。
地方の一妖怪くらい悟空やギルの手を借りなくてもいけるんじゃないだろうか…と、秘かに思う。
しかし…それにしても暑い。
そこへ来て前を開けて胸毛全開にしている髭がさらに視界の暴力レベルで暑苦しい。
思わず蹴りをいれたらバランスを崩したフランシスが悲鳴をあげて落ちかけた拍子に四方を囲む簾の一枚がはらりと宙を舞った。
……っ!!!
何故かそこから見える周りの視線が皆自分に向けられている事に気づいて、アーサーはコトリと小首をかしげる。
まるで時間が止まったかのように硬直する面々。
ごくりと息をのむ音がした。
それはもう反射のように落ちかけるフランシスを支えているギルベルトですら、こちらを凝視したままピクリともしない。
「…あの?」
と、声をかければ、そこでようやくギルベルトが我に返ったように
「村長様、お気をつけて。」
と、声をかけつつぎこちない動作でフランシスをまた輿の上へと押し上げる。
再びパサリと下ろされる簾に、アーサーはやっぱり頭の上にはてなマークを浮かべつつ再度首をかしげた。
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