GoWest-APH西遊記-弐の巻_4

こうしてアントーニョが合流すると、アーサーが乗る、馬に戻ったマシューの手綱を引いて、ギルとフランシスの後を追ってそこから数分の村へ。

てっきりすでに宿の手配が終わっているものと思っていたら、ギルベルトもフランシスもまだ村の広場のような所で村人と何か話している。


「あ、坊ちゃん、悟空と合流したのね、良かっ…ぐふっ!!」

二人に気づいて手を振るフランシスを目がけて伸ばされる如意棒。
それは避ける間もなくフランシスの腹を直撃した。

「ああ?!良かったやないわっ!!アーティに何かあったらどないすんねんっ!!」
と、眉を吊り上げるアントーニョとフランシスの間にギルベルトが慌てて割って入った。

「ちょっと待てっ!とりあえず落ち着けっ!!」
と言うギルベルトを、今度はお前だとばかり睨みつけるアントーニョをアーサーが慌てて止める。

「トーニョ、やめろっ!キレるのは話を聞いてからでも遅くないだろ?」
と、さらに二人の間に割って入るアーサーに、アントーニョは舌打ちして振り上げかけた如意棒をおさめた。

ひどく緊迫した様子で防御態勢を取っていたギルベルトは、そこでホッと力を抜く。

「さんきゅ、三蔵様」
と、小さく礼を言うと、ギルベルトはちらりと今まで自分達が話しこんでいた相手に視線を向けた。

「あれ…ここの村の村長なんだけどな、実は今すげえ大変な事になっててだな…」
と、ギルベルトは今度は斜め後方に視線を向けた。

視線の先には赤々と燃えさかる山。

「あの火焔山にな、牛魔王っつ~妖怪が棲んでんだ。
で、そいつは5年に1度、村の娘を嫁に寄越せと要求して連れていくんだと。
そんなんだからこの村からはどんどん逃げていく奴が増えて、年寄りの方が多いくらいのあり様だ。
もうこの村に若い娘は村長の一人娘以外なくなった。
で、今年も嫁寄越せの時期になったところに通りがかったのが俺様達って事だ」

痛ましげに眉を寄せてそう説明するギルベルトにアントーニョはきょとんとした顔で言い放った。

「で?」
その一言にギルベルトもぽか~んだ。

「は?で?って…。いや、おま……」
「それが護衛のくせにアーティ放置してこっち来とった理由になるん?」
「いや…それは別の問題だけど…」
「せやろ?」
とにこりと良い笑顔で再度如意棒を振り上げるアントーニョ。

「…本気で坊ちゃん以外の事には興味ないのね……」
と、自分は安全圏まで距離を取りながらギルベルトに向かって合掌するフランシス。

「いや、でもなっ!こんなところで仲間割れしてる場合じゃねえだろっ?!」
と、ギルベルトは焦りながらも再び緊迫する空気に慌てて防御態勢を取るが、そこで間に口をはさんだのは意外にもマシューだ。

「僕も色々はどうでも良いんですが…それをどうにかしないと三蔵様に落ち着いてお休み頂けないし、この異様に暑い気候の中をお進み頂く事になるっていうことですよね?」

え?え?マシューお前そういうキャラだったっけ?
と、優しげな容貌でおっとりとした口調で語られるシビアな言葉に、フランシスは顔をひきつらせる…が、何故かアントーニョの心には響いたらしい。

「しゃあないな。その牛魔王とやらをどついてくればええん?」
と、あっさり如意棒を引っ込めた。

(…どこまでも坊ちゃんの事しか考えてないわけね、この猿は…)
と、ため息をついたら、何故か如意棒が飛んできて、フランシスは再び床にしゃがみこむことになった。


「まあ理由はどうでもいい。結論から言うとそう言うことだ。
で、三蔵様が助けたのはこの村から逃がそうとした村長の娘だ」

「ふ~ん、じゃ、親分ちょお筋斗雲でひとっ飛びして、牛魔王をどついてくるわ」

とりあえず瑣末な事は無視することにしたらしい。
とにかく話を先に進めるギルベルトの言葉に、アントーニョは指笛を吹いて筋斗雲を呼ぶ。

それに飛び乗りかけるアントーニョを
「ま~て~!!話を聞けっ!!」
と、ギルベルトは慌てて止めた。

「なん?この暑さちゃっちゃとどうにかしたいやん」
と汗の滲ませて唇を尖らせながら言うアントーニョにギルベルトは困ったように眉を寄せる。

「気持ちはわかんだけどな…もし嫁を差し出さなかったりとか抵抗したりとかすれば、村を中心にこの辺一帯を焼き尽くすって言われてんだと。
だからまず作戦だ。
相手がそういう行動に出る前に確実に敵のボスんとこにたどり着かねえと意味がねえ」

ギルベルトの言葉にアントーニョはすごく嫌そうな顔をしたが、続く、
「ここら辺一体が焼き尽くされたら三蔵様だって危ないし、この村がなくなったら三蔵様を当分野宿させる事になるぞ」
の言葉に渋々頷いた。


「三蔵様が花嫁に、八戒が村長、俺様と悟空がお付きに化けてボスの所まで案内させて、ボスの所についたら八戒が三蔵様の護衛、俺と悟空で片を付けるぞ」
と作戦をたてたのは当然のごとくギルベルトだ。

アーサーをそんな危険な場所に連れていきたくはないし、実際なるわけでは絶対にないわけだが他の妖怪の花嫁役などにするのはアントーニョ的には非常に不本意である。

しかし一人残していくのは危険すぎるとなれば、戦う自分とギルベルトが動きやすい従者の服装、万が一の時は身を呈してでもアーサーを守らなければならないフランシスが村長で、お守りされるアーサーは花嫁の服…というのは仕方のないことだ。

アントーニョが渋々だがその役割を了承すると、ここが一番の難関と思っていたらしいギルベルトはホッとため息をついた。

こうしてその日一日は村に1軒しかない宿屋ではなく、招かれた村長の家で休み、翌夜迎えに来た妖怪の担ぐ輿にのって、不安顔の村人達に見送られながらも村を後にした。





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