こうしてアントーニョが両手にいっぱいのリンゴを抱えて戻ってみれば、泣きそうな顔で自分の着物を差し出しているマシューと元気に手を振るアーサー。
………
………
………
ぶっふぉぉ!!!!
近づいてその姿をはっきり目視するやいなや、アントーニョは筋斗雲から転げ落ちた。
リンゴがバラバラと地面に転がる。
「おい、大丈夫か?!」
と、のぞき込むアーサーだが、大丈夫じゃないのはお前の格好だと言ってやりたい。
「アーサーっ!!なんて恰好しとんねんっ!!!!」
即飛び起きたアントーニョはマシューが差し出している着物を奪い取ると、半ば強引にそれでアーサーを包む。
「何すんだよっ!」
「何すんだよやないわっ!!」
と叫んだアントーニョは悪くないと思う。
なにしろその時のアーサーの格好ときたら裸の上に袈裟。
なにそれ裸エプロンの亜種か?!何か狙ってるのか?!と、声を大にして言いたい。
自分が下界で色々な輩から狙われているのを全然わかってないと思う。
その証拠に
「自分真面目に犯されるでっ?!!」
と、叫ぶアントーニョにアーサーはきょとんと首をかしげる。
ああ、可愛えっ。ちきせうっ可愛すぎやねんっ!
でもあかんっ!そんな可愛え顔したってあかんもんはあかんのやからなっ!!
そんなアントーニョの内心をよそに、アーサーはその可愛らしくもあどけない顔に困ったような笑みを浮かべる。
「お前…俺は男だぞ?逆だろ?」
と、ほんっきでわかってない答えに、アントーニョは眩暈を覚える。
片手で顔を覆って
「自分…むやみに裸になったらあかんて釈迦如来に言われんかったん?」
と、その場にしゃがみこむと、アーサーはきっぱり言った。
「裸じゃねえよ、袈裟着てんだろ」
なんなんだ、その理屈は。
『パンツじゃないから恥ずかしくないもん』のもじりか何かか?
――兄ちゃん…自分こいつをどんな育て方してきてん?
一瞬現実逃避にアーサーの育ての親である釈迦如来のいる天を見つめるアントーニョ。
「ほら、言ったじゃないですか。
僕は大丈夫ですから三蔵様、この着物着てて下さい。」
と、どうやら加勢が来てホッとしたのだろう。
心底安心したように言うマシューにアーサーは不満げな顔で、『俺は袈裟着てんのに…それじゃあマシューは上半身裸じゃねえか…』と口を尖らせながらも、渋々着物に袖を通した。
それに心底ほっとして胸をなでおろす二人。
「そういや、ギルちゃんもフランもアーサー放ってどないしたん?」
そこでようやくあたりを見回す余裕が出来たアントーニョが聞くと、口を開こうとするマシューを制して、アーサーが誇らしげに言った。
「待ってる間な、レディが妖怪に襲われてたから助けたんだっ。
駆けつけた時にはレディの服がボロボロになってたから、俺のを脱いで羽織らせてあげて、近くの街まで帰るっていうから、念のため二人に送らせて、俺とマシューでお前を待ってたんだ」
ああ、うん…わかったわ。
あとで二人は如意棒で100叩きやね。
こんな危ない場所に半裸のアーサー置いて二人で何しとるんや、あのアホ共。
アントーニョの放つ黒いオーラに、マシューがヒッと身をすくめる。
「あ、あのですねっ、沙悟浄さんがおっしゃるには、今夜はそこに三蔵様をお泊めするために、先に行って準備してくるとのことだったんですっ!」
涙目になりながらもフォローを入れるマシューにそれ以上怒りをぶつける事も出来ず、アントーニョはとりあえず怒りをおさめる。
「いざとなったらマシューがいれば乗って逃げられるしな。村の安全面の事もあるから、俺が先に乗り込んで何かあったらまずいけど、物理的な宿の手配とかは自分がしたいから、八戒と俺を残すくらいならマシューと二人の方が良いだろうって沙悟浄が言ったんで、俺とマシューでお前が戻るの待ってたんだ」
と、そこでアーサーがさらに言い足せば、なるほど、と思う。
「じゃ、僕馬に戻りますねっ」
と、どうやらアントーニョが納得したのを見て、マシューは馬の形態に戻ってアーサーを乗せた。
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