全身を衣服でおおわれているものの、チラリとのぞくアーサーの素肌の部分は熱さにほんのりと色づき、服でおおわれている部分も多くは汗で張り付いて体の線が出ていて、なかなか目に毒な状態だったりする。
元々理性よりは感情が先立つタイプのアントーニョにとっては、これはご馳走を目の前にしてお預けをされ続けるよりも厳しい。
――ああ、もう、なんも考えずにくっつこうなんて親分できひんのに、腹立つわ~!!
本当は吹っ飛ばされたフランシスに石でも投げつけてしまいたい気分のアントーニョだが、アントーニョにとってはあいにく、フランシスにとっては実に幸いな事に、ここは砂漠で石なんて小石の一つすら落ちてない。
せめてもと両手いっぱい掴んで投げた砂は、フランシスに届く前に風とともに全て舞い散った。
そんなやりとりの間もアーサーを乗せた白馬に姿を変えている元竜神の子どものマシューはコツコツ真面目に歩を進め、砂漠もようやく途切れて、大地が顔を覗かせる土地へとたどり着いた。
「マシュー、ありがとな。少し休もうか」
と、そこでアーサーが馬から飛び降り、優しくその鼻面を撫でてやると、マシューは少し嬉しそうに大きな体でアーサーにすり寄る。
そんな様子にすら腹の奥底からくるモヤモヤした感情を抑えきれないアントーニョは
「ほな、親分筋斗雲(きんとうん)で食べ物になりそうな木の実でも探してくるわ」
と、口笛を吹いて雲を呼びよせて飛び乗った。
ほんま可愛えくせに無防備すぎや。
自分が周りからどう映るかを考えなさすぎやん!
アントーニョは若干まだ残るイラつきをぶつけるように、見つけたリンゴをもいでいく。
アーサーの周りを囲んでいるのは、天界の方から選ばれたと言えども妖怪だ。
そう、天帝の宝を誤って破損してしまって馬に変えられている元竜王の息子であるマシュー以外は全員本質的には欲の強い妖怪なのだ。
あんなふうに親しく気を許した風に接して来たり、むやみに肌を露出したりすべきではない。
それでなくても下界には徳の高い可愛らしい少年僧から精を引きずり出すことによってその霊力を得たいと考える妖怪がうようよしている。
そんな中でお付きの自分達まで血迷ったらどうするのだ。
まだギルベルトは良い。
あれは任務は絶対、規則は絶対と言う男だ。
でなければもっとも天帝に近いところで護衛をする天帝の近衛隊長などに選ばれたりはしない。
せやけどフランはあかんやん…
とアントーニョは思う。
何しろ天界を追放された理由が色恋沙汰だ。
女神を口説いたわけだが、男もおっけいな奴だ。
そんな危険な妖怪の前であんな可愛らしくも無防備な様子をしているなんて、可愛いウサギが狼の隣で昼寝をしているようなものだ。
絶対に絶対に絶対にっ!天竺まではしっかりあの子の貞操は守らなければならないっ!
まあ…俺自身からもやけどなぁ……
グッとこぶしを握って力んだ後に、はぁ~っとため息をついて肩を落とす。
あまりに警戒されて避けられるのも嫌なのだが、もう少しくらいは警戒してほしい。
理性を保つのもつらい…。
側にいたい…でも近づきすぎるとつらい複雑な男心を察するには、どこぞの天界人が箱入りに育てすぎている…と、アントーニョは恨みがましく空の上をにらみつけるのだった。
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