GoWest-APH西遊記-壱の巻_9

自分が他者…特に妖怪達の目にどう映るのかを教えておくべきなのか、教えずに死ぬ気で護衛すべきなのか…難しいところだと思う。

そんな悟空の悩みも全くどこ吹く風で、楽しげに駆けていく三蔵の様子に、悟空も問題を先送りにして顔を綻ばせて後を追った。


「あ、そうそう、“半端な奴”じゃないぞ?」

突然立ち止まってクルリと振り返る三蔵にぶつかりそうになって、悟空も慌てて足を止めた。

そして意味を考える。
ああ…さきほどの話の続きか…

「護衛の話?」
と、聞いてみると、やはりそうだったらしく、三蔵は大きくうなづいた。

「なんでも一人は元天帝様の近衛隊長らしいぞ?」
と無邪気な笑顔で言う三蔵の言葉に悟空がぴき~んと凍り付いた。

「トーニョ?」
約束通りプライベートな名前で呼んでくれる三蔵に感動はするが、それ以上に悟空の頭の中では警笛がピーピー鳴り響いている。

「あの…な、それ沙悟浄やろ?沙悟浄が出てくるってことは…もう一人の護衛ってまさか猪八戒やったりせん?」

否定しろ、否定しろ、否定したって!!!
心の中で絶叫する悟空の願いは到底届かず……

「ああ、よく知ってるな。知り合いか?」
と、やはり笑顔の三蔵。

ああ、笑顔可愛え…まじ天使やぁ………せやからあかんわっ!!!
クルクルと思考が色々な方向へ回る。

やっぱり…ふざけた事される前に殺るか………
黒い考えに落ち着いて、悟空が不穏なオーラをまとい始めた頃に、ようやく見えてきた村外れの大きな木。

「あ、あそこだっ!もう二人ともいるみたいだなっ!」
と、小走りになりかける三蔵の腕を、悟空はグイッと掴んで、その体を自分の後ろに隠すようにする。

険しくなる悟空の表情。
警戒に形の良い眉を少し寄せ、優しかった綺麗な緑の目が鋭い光をはなつ。

「俺の後ろにいたって」

と言う声は若干の緊張をはらんでいて、三蔵もすわ非常事態なのかと、素直に悟空の後ろで首を縦にふった。


「伸びろっ!如意棒っ!!!」
悟空の鋭い声に、いつのまに出したのか、赤地に前後に金を施した色鮮やかな棒が悟空の手の中でにょきにょきと伸びていく。

そしてそれが身の丈を5倍したほどの長さになった時に、悟空は件の木の方に思い切り振りかぶった。

ズダダ~~ン!!!!!
と、大きな音を立てて倒れる大木。

木の根元にいた一人は馬を、一人は荷物を抱えて、それぞれ後方に飛びのいたようだ。

「仕留めそこなったかっ!!」
と、悟空が舌打ちをしてさらに飛び出していこうとすると、そちらから馬をおろした人影が飛んできた。

「おまっ!!何やってんだっ!!ざけんなっ!!!!」
悟空の如意棒を半円形の刃のついた錫杖で受け止めながら叫ぶのは、銀色の髪に赤い目の妖怪。
見た目はほとんど人のそれと変わらない男に、悟空の後ろから顔を覗かせた三蔵が声をかける。

「お前…もしかして沙悟浄、元天帝の近衛隊長か?」
急にかかった好意的な声音の質問に、男はホッとしたようだ。

「おう、俺様が沙悟浄だけど…。三蔵法師様だよな?」
と、言っている側から受け止めている如意棒に男の錫杖がジリジリ押されている。

どうやら単純な腕力は悟空に軍配があがりそうだ。
が、身のこなしは悪くない。
何より珍しいその赤い目が、釈迦如来の言っていた特徴と一致している。

「トーニョ、やめろ。別に偽者とかじゃなさそうだぞ?」
クイクイと悟空の袖を引っ張ると、悟空はあっさり棒をおさめて

「ああ、本物やで?まあこいつはええわ。連れてったる」
と、随分と上から目線で沙悟浄を見下ろしている。

「連れてったるって…お前が決める事じゃねえだろ」
くしゃくしゃと銀色の髪を掻きまわしながら呆れたように言う沙悟浄。

「決めることやで?親分アーティーの護衛やし、一人楽しすぎる自分やったら無害やからええけど、あの変態妖怪は護衛としては近づけられへん」

悟空はそう言いつつ、いったん如意棒をおさめた事により安心したのか近寄ってくるもう一人をギロリと据わった目で睨みつけながら、如意棒を握りなおす。

「も~、いったい何だったの?誤解は解けた?沙悟浄」
サラサラの綺麗な金髪を靡かせながら走ってくる男…猪八戒。

「あ…あいつ…」
顔が判別できるほどに近づいてきた男を見て、三蔵が驚きの声をあげた。

「なん?知っとるん?」
「ああ。以前ポー…釈迦如来の留守中にやってきて抱き着こうと…」
説明を始める三蔵の言葉が終わらぬうちに、悟空は

「沙悟浄、アーティ任せたわっ!」
と、沙悟浄の後ろに三蔵をおしやって、如意棒を振り回しながら駆け出して行った。

「……で?抱き着こうとして?」
殴りかかる悟空と逃げ回る猪八戒を遠目に見つつ一人冷静な沙悟浄が聞くと、お前ら知り合いだったんだな…と、うなづきながら

「うざいから蹴り飛ばして髭むしって簀巻きにして放り出したんだが…まずかったか?」
と、つぶらな瞳で沙悟浄を見上げた。

「いや…うん、それ悟空に言ってやってくれ。そうしたらあの騒ぎ収まるから」
何故かやはり視線をそらして白い顔を赤く染めた沙悟浄が言う。

何故自分が見上げると二人とも視線を逸らすのだろうか…。
そんな事をふと思うものの、とりあえず先に護衛二人の追いかけっこをやめさせなければならない。

三蔵は追いかけっこをしている二人の方に少し駆け寄って大声で叫んだ。

「トーニョ~!!いい加減にしとけっ!出発するぞっ!!!
グズグズしてると沙悟浄と二人で先行くぞ~!!!」

「うああ!!!それやめてくれっ!!!!」

焦る沙悟浄と、鬼の形相で戻ってきて今度は沙悟浄を追い回す悟空。

こうしてドタバタを一通り。
昼頃ついて出発できたのは夕方である。
それでも一人と3匹の天竺への旅は始まってしまうのだ。

西へ向かうぞ、GoWest!
最初の目的地は火の国である。




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