GoWest-APH西遊記-壱の巻_7

――ええな?先にこの緊箍児をあいつの頭に付けてから五行山の封印解くんやで?

こうしてまずは悟空を迎えに来たわけなのだが、三蔵は早くも躓いて途方にくれていた。

悟空を迎えに出る前に、釈迦如来にくれぐれも緊箍児をつけてから封印を解けと言われていたのだが、三蔵が封印を解くまでもなく、悟空は自分で封印を解いてしまった

もちろん緊箍児はまだ付けさせていない。


どうしよう……

幸い釈迦如来に聞いたのとは違い、孫悟空は脅すまでもなく快く同行を承諾し、機嫌の良い様子で三蔵の手をしっかり握って歩いている。
天界で聞いていたような暴れん坊には到底見えない。

――
これ普通に頼めばつけてくれたりしないか?
と、一瞬思い、

あの……
と、孫悟空を見上げて言った。

「ん?なん?疲れてもうたなら、親分抱っこしていったろか?」

何を思ったかすごく良い笑顔でそう言われて、三蔵はブルンブルン首を横に振る。


何の羞恥プレイだ、それはと言うのは、とりあえず今後しばらくは友好関係を築かないとならない相手に対しては言うべきじゃないよな、と、一応空気だけは読んで黙ってはいたが……

まるで女性に向けるような温かな笑みと柔らかな態度。
普通に歩いているようでいて、さりげなく日差しの照り付ける側に立って、三蔵に直射日光が当たらないようにと、ちょくちょく立ち位置を変えるマメさ。

これが本当に釈迦如来の言っていた強い事は強いが言う事きかん奴なのだろうか

正直、緊箍児をつける必要性など全く感じないのだが、なにぶん釈迦如来の命じる事だから聞かぬわけにはいかない。

三蔵は思い切って指から緊箍児を外すと、

「これつけてもらえないだろうか?」
と悟空に向かって差し出した。

悟空の綺麗な翡翠色の目が三蔵の掌の上の緊箍児を凝視した。

「やっぱり自分を拘束する道具なんて、嫌だよな

それまではなんにせよテンポ良く応じていた悟空の沈黙に、三蔵はおずおずと言う。

ああ初っ端から失敗なんてどうしようと、じわりと視界が潤み始めた時、いきなりグイッと体が引き寄せられ、ぎゅうぎゅうと抱きしめられた。

「堪忍っ!堪忍なっ。いきなりやったからちょっとびっくりしただけやねんっ!!
嫌やないよ?むしろ嬉しいわっ。思い切り拘束したってっ!!」

焦ったようなしかし何故だか弾んだ声がする。

チラリと顔だけあげて悟空の顔を仰ぎ見ると、満面の笑顔だ。

今日あったばかりの人間に、自分に苦痛を与えられる道具をつけられて喜んでいるって、いったい何なんだ?
こいつ、実はMなのか?

色々思うところはあるものの、せっかく相手もその気になってくれているのだ。
ここは気が変わらないうちにさっさとつけるに限る。

「ほんとにいいんだな?」
と、一応もう一度確認したが、悟空は

「もちろんっ!」
と、大きくうなづいた。


「じゃあつけるな?」
と、三蔵は五行山まで来る道々暗記した経を唱える。

「へ??」
と、それに悟空が驚きの声をあげるが、覚えたての経を必死に追う三蔵の耳には入らない。

そして当たり前に三蔵の掌の指輪を取ろうとした悟空の手をすり抜けて、緊箍児は悟空の頭上に飛ぶと、その頭にすっぽりはまった。

「え?え?ちょお待ってっ!これなんなん?指輪やないん?」

慌てて己の頭にはまった頭冠を外そうとする悟空に、三蔵は、何をいまさら?ときょとんとした表情で少し小首をかしげた。

「ポー釈迦如来がお前が暴走しそうになったら抑えるようにお前の頭につけろって言った緊箍児だぞ?」

「え?ええええ??!!!!釈迦のアホの差し金かあああぁあああ!!!!」
絶叫する悟空にびっくり眼の三蔵。

「え?だってつけて良いって言っただろ?」
「そんなん、最初指輪やってんから、指輪やって思うやん!
好意でつけたってって言われたのかと思うやろ、普通。
これ取ったってっ!」

と言う間も悟空はグイグイと外そうと引っ張っているが抜けないらしい。
どんどん髪がグシャグシャになっていく。

「ごめんな、悟空。俺も外し方しらないんだ。髪抜けるからやめとけよ」
せっかく好意的に接してくれていたのに、なんだか騙したような形になって、すごく悪いことをした気になった。

「騙すつもりとかなくてただ釈迦如来からつけさせろって言ってた緊箍児をお前がつけても良いって言ってくれたと思ったから……

しょぼんとうなだれると、また悟空は慌てたように三蔵を抱き寄せる。
ずっと石の下にいたはずなのに、なぜかふわっとお日様の匂いがした。

「堪忍、自分のせいちゃうやんな。なあ、じゃあこうしよ。
外せんもんはしゃあないから、これは自分が好意でつけてくれたもんやと思うとく。
せやから特別な好意くれたんやから、仕事の名前やなくて個人的な名前で呼び合お?
俺はアントーニョや。トーニョって呼んだってな。
自分の事も玄奘三蔵やなくてアーサーって呼ぶさかい」

柔らかい声音。
初対面なのに距離が異様に近い気がするが、それが不快じゃないのが不思議だ。
トクントクンと聞こえる心臓の音まで何故か心地よくて、三蔵はホッと目を閉じた。

とーにょ……トーニョな。」

口の中でそう繰り返せば、これも初めて呼ぶ名なのに妙にしっくりくる気がする。

「そうやで。俺の本当の名や。
自分だけは本当の俺の名を呼んで本当の俺を知ったってな」

優しい優しい声。

やっぱりこいつポーの言ってたみたいな奴には思えないよな……などという事に注意が行って、何故わっかが外せなければ本名を呼ぶことになるのだとか、特別な相手ということになるのだということとか、それ以前に名乗ってもいないのに自分の本名を知っているのだとか、気にすべき諸々に全く気付かないところが、さすが箱入り息子である。




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