あああ~~~!!!と、釈迦如来は頭を抱える。
あかん!あいつがいっちゃん道踏み外しそうや。
あかん…ほんまあかん…。
再び頭を抱えて悩み始める釈迦如来に、あかん!あいつがいっちゃん道踏み外しそうや。
あかん…ほんまあかん…。
「ポー、どうしたんだ?どこか痛いのか?」
と、もはやこの子しか呼ばぬ、釈迦如来の元の名をもじった愛称で声をかけつつ、心配そうに眼をうるませる少年。
この優しい可愛い自分の養い子の身の安全は断固として守らねばならない。
とりあえず…弟分の暴走から守れればなんとかなるだろう。
そう考え、釈迦如来は自らの腕輪をかしゃりと外した。
とりあえず…弟分の暴走から守れればなんとかなるだろう。
そう考え、釈迦如来は自らの腕輪をかしゃりと外した。
金色のシンプルな腕輪は三蔵が物心ついた時には釈迦如来の腕にはまっていた気がする。
外したのを見たのは初めてだ。
何故ここで腕輪を?と、不思議そうにまた首をかしげる三蔵の前で、釈迦如来はニコリと微笑むと、いつもの低い穏やかな声で経を唱え始めた。
とても和む優しい声音。
物心つく前から聞き続けていた心地よい読経の声に三蔵がうっとり聞き惚れていると、釈迦如来の手の中の腕輪が強い輝きを放つ。
外したのを見たのは初めてだ。
何故ここで腕輪を?と、不思議そうにまた首をかしげる三蔵の前で、釈迦如来はニコリと微笑むと、いつもの低い穏やかな声で経を唱え始めた。
とても和む優しい声音。
物心つく前から聞き続けていた心地よい読経の声に三蔵がうっとり聞き惚れていると、釈迦如来の手の中の腕輪が強い輝きを放つ。
眩しさに思わず目を閉じて、その後光が弱まったのを感じてそっと目を開いてみると、釈迦如来の褐色の大きな手から腕輪が消え、代わりにキラキラと光る小さな指輪が乗っている。
「これな、餞別や」
と、釈迦如来は三蔵の白い手を取って、指先に口付けると、中指にその指輪をはめた。
「餞別?」
「ん。あのな、自分も知っとると思うけど、今度、天竺に経典取りに行く事になったやん?あれにな、自分も入っとるんや。
そんな危ない真似ほんとはさせたないんやけどな…。
アーティ可愛らしいから、ほんま危ないし…行かせとおないんやけど……。
ああ、心配や…やっぱ断ってこよか……」
改めて口にすると、やはり行かせたくない気持ちがむくむくと顔をもたげてきた。
「これな、餞別や」
と、釈迦如来は三蔵の白い手を取って、指先に口付けると、中指にその指輪をはめた。
「餞別?」
「ん。あのな、自分も知っとると思うけど、今度、天竺に経典取りに行く事になったやん?あれにな、自分も入っとるんや。
そんな危ない真似ほんとはさせたないんやけどな…。
アーティ可愛らしいから、ほんま危ないし…行かせとおないんやけど……。
ああ、心配や…やっぱ断ってこよか……」
改めて口にすると、やはり行かせたくない気持ちがむくむくと顔をもたげてきた。
そして喜怒哀楽がわかりにくい釈迦如来にしては珍しく半泣きでそう言うと、逆に三蔵の表情はキラキラと喜びに輝き始める。
「何言ってるんだっ!荒れた世を救うためだろ?
まかせろっ!伊達にずっと体術や道術を学んできたわけじゃねえっ!
殴られる前に殴る、蹴られる前に蹴るくらいは、やってみせるぞ!!」
どう考えても荒れた世を救いたいというよりは、今まで学んできたことを外の世界で試したい感がヒシヒシとみてとれて、釈迦如来は大きくため息をついた。
殴られる前に殴る?…問題はそんな単純なことちゃうねん…と、声を大にして言いたいが、教養は申し分ないレベルで身につけさせた一方で下賤な話…主に下半身的な事は極力耳に入れないように育ててきたし、これからも出来れば知らぬままでいて欲しいので、言えない。
とりあえずは弟分、悟空だ。
あいつさえ抑えれば、あとは不届きな妖怪がいても、あいつが絶対に近寄らせまい。
そう…あいつだけ抑えさせれば………
「あのな、アーティ…」
「ん?なんだ?」
「天竺に出発するにあたってな、護衛の一人を迎えに行かなあかんねん」
「おう、それくらい全然問題ないぞ」
もうワクワク感いっぱいでウキウキと答える愛し子の可愛らしさときたら、初めて祭りに行く幼児のようだ。
ああ、これが本当に初めて祭りに連れて行ってやるとかなら良かったのに…と、釈迦如来はまたため息をつく。
せめて…せめて自分が同行したい。
今日何度も思った事をまた思う。
それが出来ないのはわかりたくはないが、いやというほどわかっている。しかたないのだ。
そこで釈迦如来は懐から小さな紙を出す。
それを空へと投げると、紙は通常の大きさの巻物となった。
そして釈迦如来はさらに懐から筆を出すと空中へ浮かぶ巻物にさらさらと素晴らしい達筆で経を書き込んでいく。
餞別というなら経よりも指輪よりも、あの大きさなど無視で何でも飛び出してくる魔法のような釈迦如来の懐が欲しいなぁ…などと罰当たりな事を三蔵が思っているうちに、どうやら経を書き終わったらしく、釈迦如来が筆をしまうと巻物はくるくると丸まって、釈迦如来の手の中に納まった。
そしてその巻物を三蔵の手にしっかり握らせる。
「これから自分が迎えに行く事になる護衛の一人は孫悟空言う、元俺の弟子の一人やねんけど、これが強いは強いがちょっとばかし言う事きかん奴でな。
そいつを抑えるために、さっきの輪を使い。
あれは緊箍児って言うて元々頭につけるものやねん。
で、今渡した巻物にある呪文、緊箍児呪を唱えると頭を締め付けるさかいにな。
さすがにやんちゃも収まると思うわ。
特に…着物脱がされそうになったら、絶対に使うんやで?」
「着物を?何故だ?」
巻物ごと三蔵の手を両手で包み、くれぐれも、と、念押しをする釈迦如来に、三蔵は不思議そうな視線を向ける。
ああ、この自分が警告している事の意味がわからない純粋さ。
やっぱりこの子は天使やなぁ…とニンマリして、しかしすぐにハッと我に返る。
「自分は下界にやる予定やなかったから、そういう事教えとらんかったけど、実は着物に身ぃ包まんと側におると、霊力が吸い取られてまう事があるねん。
いざとなった時にアーティに霊力足りひんと困るやろ?
せやから、他の奴がおるところで着物脱いだりしたらあかんよ?
約束したって?」
深くは教えたくない。教えたくないので、最低限ぼかすことにすると、三蔵は少し不思議そうな顔をしたものの、
「よくわからないけど…わかった、そうする。
ポーのいう事はたいてい正しいもんな」
と、素直にこくりとうなづいた。
まあ…この素直さは実は対釈迦如来限定ということは、三蔵が自分の居ない所で他の相手と対峙しているところを見たことがない釈迦如来は知らない。
そう…釈迦如来の秘蔵っ子の可愛らしい少年僧の噂を聞きつけて釈迦如来の留守中にこの御殿に忍んできた元元帥が蹴り倒されて自慢の髭をむしられた挙句、簀巻きにされて放り出された事など、当然知る由もないのだ。
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