花咲き乱れるそこはまるで極楽浄土のようだった。
実際、釈迦如来にとっては極楽浄土と変らぬほどの場所だ。
自身の御殿の庭。
はるか西方から取り寄せた白やら赤やら薄桃色やらの薔薇という名の珍しい花が、この上なく美しい配置で植えてある。
そしてその花々の間をキラキラと行きかう小さな光は、同じく西方よりその花に付いてきた精霊なのだと、この庭を美しい状態で保ってくれている愛し子が教えてくれた。実際、釈迦如来にとっては極楽浄土と変らぬほどの場所だ。
自身の御殿の庭。
はるか西方から取り寄せた白やら赤やら薄桃色やらの薔薇という名の珍しい花が、この上なく美しい配置で植えてある。
生まれる前からその誕生を予感し、生まれると同時に己が手に引き取った大切な弟子。
輪廻の輪を経てもやはり己の手に戻ってくれるのだと、その時は心より安堵した。
その後は大切に大切に、この宮から一歩も出さずに、いずれ自分の傍で尊き者として天帝にお仕えする者として、恥ずかしくない教養を身に着けさせた、誰よりも愛しい子ども。
尊い者としてのぼりつめるまでは、外には決して出すまい、他の者…その道を外させる可能性のある者には決して会わせるまいと思ってきたのだが、世情はそれを許してはくれないようだ。
「アーティ、話があるんやけど……」
釈迦如来は何度かためらった後、不承不承、最愛の少年に声をかけた。
「ポー、帰ったのか。」
はっきりとした姿は彼にしか見えない精霊がきらきらと光を放つ中、愛らしい様子で駆けてくる少年。
たわわに実った稲穂のような髪に春の新緑を思わせる明るい緑の目。
肌は透けるように真っ白で、頬は彼が世話をしているもっとも色の薄い薔薇の花弁のように淡い淡い桃色に染まっている。
釈迦如来がこの天界に置くのにもっともふさわしい清らかさを持っていると秘かに思う、釈迦如来の一番の弟子、もっとも大切な手中の珠であるこの少年、生まれた際の名をアーサー、天帝に目通りをした際に賜った名は玄奘三蔵という。
「難しい顔をしてどうしたんだ?また下界で何かあったのか?」
コトンと小首をかしげながら、大きな瞳が下から気づかわしげに己の顔を覗いてくるのに、痛みだす胸。
この可愛らしい弟子をみすみす汚れきった危険な世界へと放り出せというのか…。
――あかん…あかんわ。この子を妖怪の群れなんかに放り込まれへん。
息を切らして自分の前に駆け寄ってきた少年を改めて目前にして、釈迦如来は小さく首を横に振った。
邪な妖怪の蔓延る下界に送り出すには、この子は可愛らしすぎる。
命の危険ならまだいい。
いや、良くはないが、まだましだ。
よしんばこの少年がこんなに愛らしい姿をしていなければ、最悪でも霊力を得るため食われて終わりだろう。
それならまだ苦しみも一瞬で、大事な使命の中での殉教となれば、輪廻の輪に再度投げ込まれたところで、すぐに生まれ変われるであろうし、その時が来たらまた己が手で救い上げて、今度こそ大事に大事に育ててやれるだろう。
しかしながら、実際には三蔵は、少々不釣り合いに太い眉さえなければ、少女と見紛うほどの可愛らしい容姿をしている。
これが何より問題だ。
高い霊力を持った清らかな身の美しい少年僧など、心悪しき妖怪の格好の餌食である。
精によっても霊力は吸い取れるのだ。
別の意味で食われ、死なせてなどもらえず、救われることもなく、半永久的に苦しむことになるだろう。
あかん。絶対にあかんわ…。
と思うものの、ついさっき、菩薩に天帝に人選を報告するように言ってしまった。
もうきっと伝わってしまっているはずだ。
どうしてもこの子を西への旅に行かせるなら、自分も同行したい。
…が、今の世の荒れ具合を見れば、それも許されまい。
ああ…心配だ。
こうなると頼みの綱は10年ほど面倒を見た弟分なわけだが………。
この子が行けば同行を断りはしないだろう。
それどころかあちらから頭を下げてでもついて行こうとするのは目に見えている。
やや慎重さに欠けるところはあるが、強いには強いし、細かなところはきっと沙悟浄と猪八戒がフォローする。しかしながら、実際には三蔵は、少々不釣り合いに太い眉さえなければ、少女と見紛うほどの可愛らしい容姿をしている。
これが何より問題だ。
高い霊力を持った清らかな身の美しい少年僧など、心悪しき妖怪の格好の餌食である。
精によっても霊力は吸い取れるのだ。
別の意味で食われ、死なせてなどもらえず、救われることもなく、半永久的に苦しむことになるだろう。
あかん。絶対にあかんわ…。
と思うものの、ついさっき、菩薩に天帝に人選を報告するように言ってしまった。
もうきっと伝わってしまっているはずだ。
どうしてもこの子を西への旅に行かせるなら、自分も同行したい。
…が、今の世の荒れ具合を見れば、それも許されまい。
ああ…心配だ。
こうなると頼みの綱は10年ほど面倒を見た弟分なわけだが………。
この子が行けば同行を断りはしないだろう。
それどころかあちらから頭を下げてでもついて行こうとするのは目に見えている。
道中の妖怪に対する護衛と言う事ならまあ良いのかもしれないが…問題は…
ミイラ取りがミイラにならなええんやけど……
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