GoWest-APH西遊記-壱の巻_4

「あなたならなんとか悟空を説得できませんか?」

心底困り切った様子の菩薩の声に、釈迦如来は深い翡翠の瞳を下に隠した瞼をピクリと動かす。それにより濃く長いまつげがかすかに揺れる。

「あいつなぁ方法ないこともないねんけど……気ぃ進まんわ……

気怠げな声
ふわあとあくびをしながら大きく伸びをすると、釈迦如来は完全にその目を開いた。

彫りの深い整った顔立ちに普段は穏やかな表情を浮かべている釈迦如来だが、今は困ったような様子で眉尻をさげている。

菩薩には彼がなぜそんな顔をするのか、とんと見当がつかない。

なにしろ穏和に見えるこの男、実際に性格は穏和ではあるのだが、決して力がないわけではないのだ。


500年前、天界の再三にわたる誘いを断り続けていた悟空に天で仕えることをうなづかせたのも、また、その10年後に天界を出て下界で暴れまわる悟空を懲らしめ、五行山に封印したのもまさにこの男なのである。

もちろん最初と最後だけではない。
天界にいた頃の悟空の世話役でもあり、悟空からは「兄ちゃん」と呼ばれて親しくしていた間柄だ。
だからこその打診であった。

「あなたという人はっ!方法があるなら早くなんとかなさいっ!
これは天下泰平にするために必要な、大事な大事なお仕事なのですよっ!」

「せやかてなあ……

白い頬を紅潮させてぽこぽこと怒る菩薩にのらりくらりと返事をしつつ考え込む釈迦如来。

こうしている間にも何人もの人間が困っているのですよ、おバカさんっ!!と、その煮え切らない様子に菩薩が言うのをしばらくじーっと眺めていたが、やがてはぁ~っと息を吐き出した。

「しゃあないんかなぁあの子巻き込みとうないんやけど……
まあうん、運命(さだめ)っちゅうやつかもしれんなぁ……しゃあないわ……
と、自分に言い聞かせるようにつぶやくと、肩を大きく落とす。

「あの子?」

言葉に抑揚のない釈迦如来にしては随分と気持ちのこもったようなひどく大切な者について口にするような口調であの子と呼ぶ人物について、菩薩は少し気になって聞き返したが、釈迦如来からの説明はない。

ただ、これも珍しく若干不機嫌な声音で

「まあええ。坊さん枠も決まりや。
依頼と説明は俺がしてくるさかい、天帝に報告してきてや。
天竺行きの僧は玄奘三蔵。
護衛は孫悟空、沙悟浄、猪八戒や。」

と言って、クシャリと癖のある黒い髪を掻きつつ億劫そうに立ち上がる釈迦如来に、気の進まないらしい結果を釈迦如来が覆そうと思わないうちにと、菩薩はコクリとうなづいた。





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