10月も終盤を迎え、スペインはそろそろ寒くなってきた街で買ったかぼちゃを始めとする大量の食材を手に自宅へ急ぐ。
昨日のうちにカボチャのクッキーやパンプキンパイなどは焼いておいたから、これはスープやプリンを作る分だ。
夜に間に合うように帰ったらすぐ作り始めなくては。
そう思うと重たいはずの荷物も全く重さを感じることなく、足取りも軽い。
10月の始めのイギリス邸で家デートをしている時の事、例年元弟とハローウィンの脅かし合いをしていたスペインの愛しの恋人のイギリスは、今年はスペイン宅でスペインと過ごしてくれると言い出した。
普段、何のかんの言って元弟をいつでも最優先してきた恋人である。
今でもなんのかんの言って邪魔をしてくる元弟、アメリカに日々イライラさせられているスペインとしては、可愛い恋人の思わぬ言葉に大感激だ。
よもや自分を一番に優先してくれるとは。
何か感謝の気持ちを示したい。
イギリスが通常を犠牲にしてくれるなら、代わりに何か喜ばせてやりたい。
そう…例えば二人きりになりたいところではあるが、誰かイギリスが連れてきたい相手を誘わせてやるとか……。
とはいっても、元弟も連れてくるとか言われるとさすがに嫌なので、イギリスが大事にしている別のあたりをターゲットにしようと思い立つ。
「なあ、普段イギリスはハローウィンの時に妖精さんに協力してもらってるんやんな?」
スペインには見えない妖精さん。
しかし恋人が大切に思っているというのを別にしても、スペイン自身はそれを否定する気はなかった。
なにしろスペインの育ての親であるローマの所にはたくさんの妖精がいたのである。
彼と暮らしていた子ども時代には確かに見えていた記憶もある。
だからイギリスが彼女達を見えるといっても、全くおかしな気はしない。
むしろ自分に見えないのが残念なくらいだ。
見えたらイギリスとの大きな絆が一つ増えたのに…。
しかし見えないからと言って接触を持てないわけではない。
イギリスと恋人同士になってから、スペインはイギリスの家に行く時は必ず妖精さんの分も手作りの菓子を持参し、イギリスに手渡したそれは窓際の皿に置かれてしばらくすると、無くなっていた。
彼女達が食べているらしい。
そんなやりとりをしているうちに、スペインがイギリス邸に行くと、手も触れないのに自然にドアが開くようになった。
時には銀の鈴が震えるような音が聞こえる。
イギリスに言ったら、それは妖精の笑い声なのだと教えてくれた。
そしてスペインは妖精達に歓迎されているのだとも…。
それを知ってからは自然にドアが開いた時にはそこに妖精がいるものとして礼を言い、それようにすぐ出せるようにしておいた礼のクッキーを差し出し、彼女達そのものだったり世話をしたりしているという庭の薔薇を褒めたりと、一方的ではあるが会話もするようになった。
そんなスペインの態度は恋人をとても喜ばせ、どうやら妖精さん達の好感度をさらに上げられたらしく、二人はまるで家族に祝福された恋人達のように、どこか温かな空気の中、幸せに過ごしていた。
だからこその提案だ。
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