不思議の国の金色子猫14

そんな事があったせいだろうか…その日の夢は不思議な夢だった。

昼間に見ていた小さな噴水。

水が徐々に出て溢れ出したかと思えば、水の吹き出し口の上の球体の飾りの上にアーサーが現れて、とたんに青やら白やらの水しぶきどころか、雪の結晶が飛び出してくる。

そんな風に暑いスペインにしては随分と涼しげやなぁと思っていると、アーサーの周りを光が照らし、茶褐色の身体にオレンジの頭の小さな小鳥が舞い降りてきた。

まるでお伽噺のようにキラキラとした愛らしい光景に思わず顔がほころぶ。

ああ…やっぱ親分のアーサーは可愛えなぁ…。
鳥さんも可愛え。
可愛えものは可愛えものに寄って来るんやなぁ…。

そういえば…あれ…なんやったっけなぁ……
ああ、そうや、ヨーロッパこまどりや…。

なんでヨーロッパこまどり?

あれ…確かなんかの童話に出て来たんやっけ…
でもって…確か…どっかの国鳥やった気が……
いや、そんなんどうでもええねんけど…なんかひっかかるんは気のせいやろか……

そんなことを考えながらぼ~っとしていると、顔にぱふんという柔らかい感触…。

いや、今それどころやないんやけど…と思ってまた噴水に目をやると、噴水の上にいたはずのアーサーがいつのまにやらスペインの上で踏み踏みしている。

踏み踏み………
………
………
………

「ああ、朝か。おはようさん」
スペインはそう言って、楽しげに足踏みをしている子猫の小さな体を持ち上げた。

――ま~お!
抱え上げられたまま短い足をパタパタ動かしながら、今日は子猫は小さな口いっぱい開けて元気に挨拶をする。

昨日よりはだいぶ元気な気がする。


「おはようさん。今日も可愛えなぁ」

その小さな体を顔の近くに持ってきて顔をうずめると、やっぱりほんわりと温かい体温と共に花とミルクの柔らかい匂いが感じられて、多幸感にスペインは思わず笑みを浮かべた。

まお~っまおっ!

そんなスペインなどなんのその、子猫は早くベッドから起きて活動を始めろとばかりにスペインの手の中でわたわたと暴れた。

ああ、やっぱりこのやんちゃさがアーサーやなぁ。

このところの少し遠慮がちな様子も可愛かったが、やはりこうして元気にスペインに要求してくるこの子のやんちゃなところが好きだ。

食事をやってまたアーサーを脱衣所に置いてシャワーを浴びて、自分も食事。
アーサーはその間もやはり離れたがらないのでテーブルの上だ。

スペインの食べ物を食べたがる事はないが、興味はあるのか、皿のふちをトントンと叩いてみたり、ふんふんと匂いを嗅いだり忙しい。

「自分も同じモン食べれたらええのになぁ。
そしたら親分めっちゃ美味いご飯作ったるのに」

そういうスペインの言葉も、今はスプーンに逆さに映っている自分の姿に夢中なアーサーには届いていないらしい。
頭を撫でても、邪魔するなとばかりにフ~っ!と威嚇された。

こういう時は子猫と言えどもいっちょまえの雄なんだなぁと感心する。
でも可愛いだけの女の子みたいなのより、こうして色々な面を持っているアーサーが良い。

この子のすべてが好きなのだと断言できるあたりが、みんなに散々猫馬鹿と言われても否定できないところである。


おそらく逆さに映るというのが不思議なのだろう。

まるで事件現場で推理をする探偵のごとく、気難しい様子でフンフン匂いを嗅いだり、たふたふ前足でつついたりしている様子が面白おかしくてクスクス笑うと、うるさいっとばかりににらまれた。

本人(本猫?)は至極真面目に推理中らしい。
しかしその推理は、疑われたスプーンの反撃で終了となったようだ。

なかなか判明しない逆さの謎に若干焦れたのだろう。
ドン!と強くスプーンの縁を踏んだら、スプーンがひっくり返って、柄が思い切り頭に当たって、慌てて逃げ出す子猫。

スペインの手元まで戦略的撤退をした上で、ふっー!!と威嚇をしたあたりで、スペインはポンポンとその頭を軽くたたいた。

「ほいっ、その辺でもうやめとき。スプーンさんもお帰りの時間やで~」
と、スプーンを手に取ってひらひらとかざすと、またびびって、今度はスペインの胸元に飛びついた。

威勢がいい割に突発事項に弱くビビりな所も可愛い。

こうしてスペインがスプーンを含めた食器をまとめて流しに運んで洗う間、アーサーはここが落ち着くとばかりにいつものマグへ。

その後、片付けが終わると、アーサー共々書斎へ籠る。




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