不思議の国の金色子猫13

うららかな日差し。暑くも寒くもない絶好の散歩日和だが、早朝の公園には平日だけあってそう人影もない。

スペインはケージから子猫を出してジャケットで包むように胸元に抱え込むと、軽い足取りで芝生に足を踏み入れた。

まぁお…
アーサーの大きな目がクルクルと興味深げにあたりを見回し、一点に止まる。

芝生が少し途切れたベンチの並ぶ広場のようなところに設置された噴水。
その噴水からころころと零れ落ちるように飛ぶ水しぶきが、彼の興味をひどく引いているらしい。

「噴水好きか?水嫌いやのに」
と、わくわくした様子で前足を伸ばすアーサーに笑いながら、スペインはそちらに足を向けてやる。

ジャケットのしたの小さな塊は、早く早くというようにもぞもぞと動いてくすぐったい。

色とりどりの植え込みに囲まれた噴水の傍まで近づくと、今にも懐から飛び出していきそうなアーサーをスペインは慌てて支えた。

「あかんよ~。危ないやん」

と、そんなスペインの言葉も耳に入らないかのように、マオマオマオ~とジタバタジタバタ前足を伸ばして暴れるアーサーに、

「しゃあないなぁ…」

管理人さん、堪忍なぁ…と心の中で詫びながら、スペインはなるべく植え込みを踏まないように気を付けながらアーサーの足が水に届く距離までアーサーの身体を支えた手を伸ばしてやった。

だが、まお~、と嬉しそうにキラキラと飛び散る飛沫に伸ばした前足が水に触れた瞬間…



――ぴっぎゃあああ~~!!!!

と、今度はすさまじい悲鳴を上げて、アーサーはアントーニョにしがみつこうと再びバタバタと暴れだした。


まおまおまお~~!!!!!

水から遠ざけて再度胸元に戻してやると、ヒシっとアントーニョのシャツに爪をたててしばらくフルフルと固まった。
かと思うと、今度はバっとアントーニョを見上げ、まるで何をするんだと怒っているようなすごい勢いで鳴いた後に、口を半開きにしてフ~ッ!っと威嚇する。

「え~、なんで親分怒るん?触りたがったの自分やん」

スペインは、そのいかにもな八つ当たりの図に眉をハの字にしながらも、愛猫の可愛らしさに思わずこぼれそうになる笑みを必死にこらえた。


…まぉ…ま、まぉま~ぉ……

すると落ち着いて恥ずかしくなったのか、アーサーはパッとまた顔をアントーニョの胸元に戻し、ごにょごにょとまるで言い訳でもするように気まり悪げに鳴きながら、爪をひっこめた柔らかい前足でてふてふとアントーニョの胸元を叩く。

そんないつもの調子が戻ってきたのが嬉しくて、ぐしゃぐしゃにその頭を撫でまわすと、アーサーは気持ちよさそうに目を閉じてゴロゴロと喉を鳴らした。


「水触るの嫌なんやったら、ここで噴水見ながらお昼にしよか~。」

だいぶ落ち着いてきたのを見計らってスペインは胸元の子猫にそう語り掛けると、肘に下げていた袋をカサカサ鳴らす。

その中にはさらに二つの袋。
途中で買ってきたスペインとアーサーの食事が入っていた。

水に濡れて懲りたとはいえ、アーサーも噴水から離れがたいらしく、その目は相変わらずキラキラと光りながら飛び散る水しぶきを追っているので、スペインはそのまま噴水脇のベンチに座ってアーサーが噴水に見とれている間にまず自分の昼に買ったボカディージョを食べてしまい、アーサーをいったんベンチへとおろすと、子猫の離乳食の缶詰を開けてやる。

それをいつものように指に乗せてやっても、よほど噴水が気になるのか、食いしん坊のアーサーにしては気もそぞろで、噴水と指先を落ち着きなく交互に見ながら食べている。

その様子はまるでテレビが気になって食事に集中できない子どものようで、

「こら、行儀悪いでっ」

とぱふんと空いている方の指先でそのふわふわの頭を軽くぱふんと叩いてやれば、ま~ぉ…と、少し気恥ずかしげに食事に集中し始めた。






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