不思議の国の金色子猫11

そのまま離乳食を作ろうとキッチンへ向かう途中、腹のあたりがもぞもぞするのに視線をチラリと向けると、普段は前を向いてスペインの行動を観察しているアーサーが、今日は何故かスペインの側に顔を向けて、甘えるようにスペインにすりすりと頭をこすりつけていた。

あかん…可愛え……!!!

思わず足が止まり、緩み切った顔を片手で覆えば、それに気づいたのだろう。アーサーの動きもぴたりと止まった。

…ま…まぁぉ……
何かお伺いをたてるかのように、細い声で鳴いておずおずと見上げてくる。

その様子は、ああ、もうどうしたろ?と思うくらい可愛い。

そこで少し想像…アーサーがもし小熊だったら……
ポケットには入らないだろうが、スペインの足元に座って黒い丸い目で見上げてきたら…
………
………
あっか~ん!!!それでも可愛えええ!!!!

もうどんな動物になっても、アーサーの可愛らしさは全く変わらない気がする。

目の前の現実でも、そこから派生した妄想でも、その可愛らしさに思い切り悶えているスペインの様子に、子猫はさらに不安を覚えてしまったようだ。

まぁお…まぁお…
と、心細げに鳴きながら、爪を隠した柔らかい前足でポケットごしにスペインをカリカリと引っ掻いた。

「あ~、堪忍な。
単にアーサーがあんま可愛えんで、ついつい親分手が止まってしもうてん」

そう言っていつものように頭を撫でてやれば、きゅぅぅとポケットの中で小さくなって丸い目を閉じてコテンとスペインの掌にすり寄ってくる。

そのまま頭に置いた手を顎に移動して、顎の下を掻いてやれば、ゴロゴロと可愛らしく喉を鳴らし始めた。

片手でそうしながらも、スペインは食器棚からアーサーの餌を入れる皿を出し、猫缶とカリカリと猫用ミルクを用意する。
そしていつものように離乳食を作り、再びリビングへ移動。

餌の皿を床に置いてやって、アーサーをポケットから出そうとすると、

…まぉまぉぉ…
と、ぎゅぅっと固く目を瞑って、いやいやとでも言うようにフルフル頭を横に振り、エプロンにしっかりと爪を立ててポケットから出されまいとする。


…ま~おぉ、ま~おぉっ
ここに居たいのだと訴えるようにスペインを見上げて鳴く子猫に、スペインの表情は自然柔らかくなった。

「なん?今日はこのまま食べるか?」
と、聞いてやると、

…まおぅ
と、子猫は爪を立てるのをやめてふにゃりと体の力を抜いて、ゴロゴロと喉を鳴らした。

結局今回はアントーニョが一すくいずつ指で餌を救ってそのままエプロンに納まって顔を出すアーサーの口元にもっていって食べさせてやった。

指の上から餌がなくなると、子猫は珍しくぱたぱたと前足で催促することもなく、ただちゅうっとその指を吸う。

食事が終わって普段ならスペインがシャワーを浴びている間はリビングのクッションで寛ぐのだが、今日はアーサーをクッションに下ろしてスペインがエプロンを外して洗濯機に放り込み、着替えを持ってバスルームに向かおうとすると、とてとてとまだ短い足で一生懸命スペインの後についてくる。


脱衣室に入ってドアを閉めると、ようやく追いついてきたのかドアの所で悲しそうに、マ~オマ~オと鳴くので、ついついドアを開いて中に入れてやる。

服も全部脱いで、それでも出ていく気配もないので、

「来るか?」
と手を伸ばせば、手の中に飛び込んでくる。

そういえば猫は水が嫌いなんちゃうん?と思いつつもバスルームへ行って、水を出した途端、アーサーはやっぱり毛を逆立てて逃げ出した。

やっぱそうやんなぁ…とスペインが苦笑しながらドアを開けてやると、アーサーは脱衣場へと逃げ出していく。

そこでバスルームのドアを閉めたら、今度はドアをカリカリと引っ掻きながら、入れてくれと言わんばかりに、ま~おま~お鳴くので、スペインも困ってしまった。

「自分…水怖いんやん」
と、それでも無視できずに開けてやると、アーサーは困ったように前足を出して引っ込め出して引っ込めしている。

「う~ん…親分が見えとればええんやったら、そこで待っといたらどない?」
と、提案してみると、アーサーもそれが妥協ラインと思ったのだろう。

ま~お…
と一声鳴いて、大人しくその場に座り込んだ。






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