親分と魔法の子猫9

……と、その瞬間だった。
非常にタイミング悪くドアが開いた。

「…スペイン、お前……っ!俺様、言ったよな?!
お前の態度次第では、俺様にも考えがあるってっ!!!」
すごい勢いでスペインと引きはがされ、ボン!と後ろに放り出される。

「坊ちゃん、大丈夫?こっちおいで」
と、それを受け止めたフランスに言われるが、わけがわからない。

とりあえず髭は後ろ脚で回し蹴りしておいて、イギリスはプロイセンに襟首掴まれているスペインを救出しに走り出した。

「ちょっと待てっ!何の話だ?!とりあえず落ち着けよ」
と、プロイセンの腕をつかむと、珍しく強い怒りを含んだ赤い目にぶつかって、少し身がすくむ。

しかしそこで
「別にこいつかばう必要はねえぞ、イギリス」
と、振り返ってかけてきた声音は存外に優しい。

どうやら自分がスペインに何か嫌な事をされたか言われたかして泣いていたのだと誤解したらしい。
まあこれまでの不仲な様子を見れば、そう思っても不思議ではない。

そういえば…プロイセンは他と違ってからかったり嫌がらせをしてきたりすることもなく、いつも好意的に接してきてくれているから、今回もその延長線上なのだろう。
友達……そう、友達と言えるかもしれない。
きっと友達のためにと怒ってくれているのだ。

そう思うとなんだか少しくすぐったくて、照れくさくて、まっすぐ目を見れない。

「いや、本当に目にゴミが入っただけなんだ。
スペインはたまたま早く会議場について、書類配布とか手伝ってくれて、チュロス分けてくれただけで……。
あ、あの…心配してくれたお前の気持ちは嬉しくないわけではないぞ。
その………サンクス……」
本気で恥ずかしいが、紳士としては友情にはきちんと応えなくてはならない。

真っ赤になっている顔を隠すようにうつむいて小声でそういうと、どうやら誤解は解けたらしく怒りは収まったようだ。

「いや…俺様てっきり…。そか。ならいいんだ」
と、こちらも何故か赤くなってうつむいているプロイセンに、

「ええわけないやろっ!いきなり何してくれとるんやっ!!」
と、スペインの蹴りが飛ぶ。
そこで謝罪をしつつそれを避けるプロイセン。

その二人のやりとりを尻目に、蹴り飛ばされた衝撃から早々に復活したらしいフランスは、

「なあに、坊ちゃんお腹すいてたの?ならお兄さん良いモノ持ってるよ?」
と、鞄の中から取り出した袋を揺らす。

おいでおいで、と、手招きをしつつ、議長席の隣に陣取るフランスに、とりあえず菓子につられてフラフラとついて行くイギリスの腕をいつのまにかプロイセンを振り切ったらしいスペインがガシっと掴んで自分の方へ引き寄せ、ついでに議長席の隣のフランスを椅子ごと蹴り飛ばした。

袋を持ったまま椅子ごと滑っていきかけるフランスから、イギリスが袋だけサッと取り上げると、スペインが

「そんなん食わんでも親分のチュロス食べっ」
と、頬を膨らませるが、菓子に罪はない…と、イギリスは主張する。

「あいつ料理だけは美味いし…。チュロスの礼に一緒に食おうぜ?」
と、笑いかけると、スペインは苦笑。

「その笑顔反則やわ。可愛らしすぎて嫌や言えへん」
と、フランスと共に壁際に移動した椅子の代わりに、その隣の椅子を引っ張って来て、議長席のイギリスの隣に腰をかけた。

プロイセンは当然その反対側の隣に陣取っている。

「ちょ、坊ちゃん、お兄さんは?!」
と、壁際から椅子を引きずってくるフランスに、

「一応菓子に免じて会議場にいることは許してやる」
と言うと、

「さすが親分のイギリスや。優しいなぁ」
とスペインはイギリスの肩を引き寄せ

「まあ早いもん勝ちってことで。悪ぃな」
と、プロイセンは金色の頭を撫でまわす。


「二人とも酷いっ!」
と言いつつ、フランスはイギリスの正面、距離は離れているものの、普通に前を向いていれば常に視界に入る席をキープした。







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