例によって世界会議は出なければならない。
会議の準備はほぼ部下がやってくれているものの、今回は主催国なので早めに帰らなければならないし、会議前1週間目の夜、前回の事があるので、仕方なしにまたスペインの夢の中でスペインが世界会議から戻るまで留守にすることをきっちりと伝えた上で、スペインが目を覚ます前に人間に戻ってイギリスは自宅に帰ってきた。
夜…眠る時におやすみを言ってくる相手もいなければ、朝起こす相手もいない。
一人きりで眠るベッドは妙に寒かった。
寂しい…
あの時スペインが泣きながら言った言葉がとてもよく理解できた。
誰かとずっと一緒に暮らした経験がなかったので、こんな寂しさは今まで知らなかったが、たった2か月弱、誰かと一緒の生活をし続けただけで、もう一人の生活が寂しくなっている。
スペインのように何百年と子分と一緒に暮らしていれば、一人になった時の寂しさは自分だったら気が狂うほどだろう。
ああ…その寂しさを子猫のアーサーに向けるように、自分に向けてくれれば……。
…ありえないな……。
自分で考えて置いて、イギリスはそれを否定した。
スペインは自分を嫌っている。
今子猫に愛情を向けているのだって、自分が…イギリスが姿を変えたものだと知らないからだ。
あの海戦あたりのやりとりがなければ、子猫の時のような関係を人間体でも作れたのかもしれない…と、ふとスペインとの不仲が決定的なものとなった歴史を振り返ってみるが、振り返ってどうなるものでもない…落ち込むだけだ。
…はぁ……もう寝るか…。
戻ってからは寒くて寒くて、なんとなく何かに触れていたくて、お気に入りのティディベアを抱きしめながら、それごとブランケットにぐるぐる巻きになって眠るのが習慣化している。
それでも、おはようを言う相手がいない、自分のためだけに朝食を作る朝はなんだかむなしく感じた。
そんな一週間が過ぎた後、事前に準備しておいた書類等を手に、早朝から会議場入りをする。
静まり返った会議室内、一人で黙々と書類を並べながら考えるのは、子猫の姿で一緒に暮らしている太陽の国の事。
子猫の姿の自分がいなくなって1週間。
少しは寂しがってくれているだろうか…いない事に慣れて、いなくなって平気になってしまったりしてないだろうか…。
最終的に平気になってもらわないと困るはずなのだが、なられるのが怖い。
ああ、結局寂しいのは自分の方だ。
――自分、ほんま可愛えなぁ。
慈しみを込めて温かな笑みと共に言われるあの幸福感。
安心して相手に我儘を言える関係なんて初めてだった。
許容されている…それはなんてすばらしい事だろう。
本気で猫のまま一生を終えても良いと、何度も思った。
あの温かな腕の中で生が終わる瞬間を迎えられたらどんなに幸せだろう…。
そんな事を考えていると、いきなり温かな腕が後ろから伸びてきた。
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